その090「花火」

「姉ちゃん姉ちゃん!」

 花火大会の日、超満員で賑わう河川敷の広場にて。

 今日も今日とて、僕は姉ちゃんのことを呼ぶんだけど。

「あ……れぇ~~~!?」

 姉ちゃん、人混みに飲まれて流されてしまったぞ!?

 僕は慌ててスマホを取り出し、姉ちゃんの番号を呼び出す。

「もしもし姉ちゃん、今どこ?」

『……人の多い広い場所だわ。ここで花火は見たくないんだけど』

 とりあえず連絡は付いたようで、安心。

 僕も人混みをかき分けて、どうにか姉ちゃんを発見した。

「姉ちゃん、地獄を生き抜いて薄汚れた修羅わんこみたいな有様だな」

「毎年だけど、この花火のポジション争奪は苛烈よね……」

 この花火大会、地域では結構な評判で、町内に止まらず市外や県外から来る人も多い。

 今回も同様に、ものすごい混雑だぞ。

「ホント、ここ見えにくいのよね」

「姉ちゃんは身長がなー」

「それを言わないで頂戴」

「……よし、姉ちゃん、僕の肩に乗れっ」

「え、なんで屈んでるのよ」

「今こそ、戸●呂(姉)を実現する時(※その023参照)だぞっ。なんか出来る気がするっ」

「危ないし屈辱だから、絶対に嫌よ!?」

 とまあ、困っていたところで、

「お?」

 僕のスマホに呼出があった。

「……神様?」

 画面には、つい先日、電話番号交換した神様の番号。

 首を傾げながら電話に出ると、

『少年、暇か? いいものを見せてやるぞ、ククク』

 そのような申し出があった。



「来たか」

 河川敷から歩いて、十五分の町外れの小山。

 頂上付近の高台で、神様他、その友達と思われる数名が待っていた。

「神様、いいものって?」

「見るといい」

「?」

 神様が指し示す先、そこには町を見渡せる塀があって。


 その先――夏の夜空に、大きな花火が打ち上がった。


「おお」

「す、すごい」

 姉弟揃って、思わず唸ってしまった。

「絶景じゃろ?」

「流石は町の神様だぞ。何でも知ってるんだな!」

「ククク、もっと崇めてもいいのじゃぞ」

 ふんぞり返る神様。

 隅っこで『職権乱用じゃね?』『いや、アイツ襲名延期中だからセーフ』という会話が聞こえた気がしたけど。

 どうでも良くなるくらい、この場で見る花火は圧巻だった。

「綺麗だね、姉ちゃん」

「うん……」

 姉ちゃん、吸い込まれるように花火に見入っている。


 その笑顔は綺麗で、幸せそうだったから。

 僕は、親しい人達と談笑する神様を、もう一度見てから、


「姉ちゃん」

「ん?」

「僕も――神様みたいに、誰かを笑顔にしたいな」


 一つ。

 僕は、決心した。

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