その089「女装2」

「姉ちゃん姉ちゃん」

 今日も今日とて、僕は姉ちゃんのことを呼ぶ。

「普段と違って常時高音で吠えてるわんこみたいで、アンバランスね」

「ううむ、また女装することになるとは……」

 今日は、近所の商店街で仮装大会が開かれている。

 仮装で買い物すると割引特典があるので、僕がお母さんにコーデチェンジさせられた上で、姉ちゃんと一緒におつかいを頼まれていた。

「姉ちゃんいいよな。不思議の国な衣装で」

「これもこれで結構恥ずかしいわよ」

「今度、学芸会でその劇やるから、出てみない?」

「嫌よ!?」

 姉ちゃんが涙声なのを聞き流しつつ歩いてると、


「あの、もし?」


 後ろから声をかけられる。

 振り向くと――短い髪と花飾りが印象的な、着物姿の女性が微笑んでいた。 

『は、はい、なんでしょうっ』

 流石に声がうわずった。二人揃って。

「道をお尋ねしたいのですが、よろしいですか?」

「え、ええ、私達でよろしければ」

「ね、姉ちゃんまで狼狽えてどうすんの……!」

 僕達の緊張を余所に、彼女は花のように微笑んで、

「良きお友達を持てて、私も幸せ者ですね」

「え? 友達?」

「どこかでお会いしましたっけ?」

「あら、いつも会ってるではありませんか」

 まるで記憶にない。

「いえ、心当たりは……」

「ありません? 本当に?」

「……って、近い近いっ!」

「ね、姉ちゃんずるい!」

 と、狼狽MAXな状況の僕達姉弟を見て、


「――ぷっ……ははっ、ボクだよ」

 その雰囲気を解除して、お馴染みの爽やかな笑顔を見せた。


「え……まさか」

「王子?」

「ふふ、そういうこと」

「ナンデ!? 女の子が女装っておかしくない!?」

 パニックな姉ちゃんはともかく。

「王子が女の子の格好したの、初めてじゃない?」

「これも挑戦というやつさ」

 王子は笑って、

「でも、女装してるの、ボクだけじゃないんだよね」

「え? それはどういう――」

 と、僕が首を傾げた矢先、

「ハロー、マイフレンド、デスワ」

「グレくん、なにそのボディコン衣装!?」

「自分も居るッス!」

「原くんは……結構、ポップな感じで似合ってるな」

「……ん」

「ヤッくん、その風貌でメイド服はシュールだぞ!?」


『我ら、ガールズリメイク四人衆!』


「皆ノリノリだな!?」

「ワンワンも仲間に入る?」

「ううむ」

 僕はちょっと考えて。

 数分後。


『――ガールズリメイク五人衆!』

「入っちゃうの!?」

「戦隊が作れるぞ。五人だし」

「女装戦隊とか嫌すぎるわ!?」

「で、六人目の戦士は……」

「こっち見るな!?」

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