その091「始まり」
「姉ちゃん姉ちゃんっ!」
今日も今日とて、僕は姉ちゃんのことを呼ぶ。
「なによ、一目惚れした余所の子にアタックを仕掛けようと気張るわんこみたいになってるわよ」
「――僕、アイドルになるっ!」
「……………………は?」
姉ちゃん、目が点になっていた。そうなるのも仕方がない。
経緯を説明しておこう。
「実はこの前、スピードスタープロダクションにスカウトされちゃって」
「スピスタ……って、デルタ☆アクセルが所属してるスピードプラネット系列の芸能事務所!? マジなの!?」
「うん、この前のカラオケ大会(※その085参照)で、タカマ経由で話が進んだみたいで」
「つまり、タカマ推薦ってこと!?」
「そうなるぞ」
僕も、初めて話を聞いたときは耳を疑ったけども。
タカマが言っていた言葉。
『――おまえ、面白いな』
まさか、そう言う意味だったとは。
「いきなりのことだったから話を少し待ってもらって、お父さん達や法城先生にいろいろ相談して、ようやく踏ん切りが付いたところだぞ」
「最近帰りが遅くなってたのはそのためか……でもなんで、私には相談しなかったの?」
「いや、姉ちゃんだと相談どころじゃなくなるでしょ」
「……ご尤もだわ」
姉ちゃんは苦笑して、
「でも……よく、そんな決心をしたわね。コンテンツに触れるのは私の影響だろうけど、実際にやるまでは興味なさそうだったのに」
「ん、決め手になったのも姉ちゃんだよ」
「え?」
「――神様が、この前の花火大会で姉ちゃんを笑顔にしたみたいに。僕も、大好きな姉ちゃんと、大好きな皆を笑顔にしたいって思えたんだ」
「――――」
それを聞いて。
姉ちゃん、口元を手で覆って、しかも眼からは大粒の涙がこぼれた。
「ね、姉ちゃん?」
「ごめん……なんか、うん、ぐすっ……嬉しくて。いつの間にか、立派になったんだなって」
「姉ちゃん」
そして、涙を拭って、姉ちゃんは笑ってくれた。
「わかった。私も、あなたのやりたいこと、全力で応援する。思いっきりやってみなさい」
「うんっ」
結構迷ったけど、決心は間違っていなかったようだぞ。
姉ちゃんのこの笑顔は、第一歩。
もっともっと、姉ちゃんだけでなく、皆の笑顔を増やしていこう。
「あ、そうだ。あなたがもし大物になったら、そのコネでデルタ☆アクセルにナマで会わせてね? 約束よ?」
「姉ちゃん……」
……その辺りブレないのは、流石と言えば流石だぞ。
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