その087「友達9」

「姉ちゃん姉ちゃんっ!」

 今日も今日とて、僕は姉ちゃんのことを呼ぶ。

「定期的に来るわね、その新たな散歩コースを開拓したがるわんこ模様。誰を連れてきたの」

「何で新しい友達を連れてきたってわかるんだ?」

「わかるわよ」

 もはや悟りの境地だぞ。

 歓迎してくれるようだから、そのまま呼んじゃおう。

「おーい、天羽海道山岳丹波楢崎原口丸戸八代乱麻くーん」

「は?」

 姉ちゃんの呆け顔を他所に、新たな友達がやってきた。

「初めまして、お姉さん。天羽海道山岳丹波楢崎原口丸戸八代乱麻あもうかいどうさんがくたんばならざきはらぐちまるやしろらんま しょうといいます!」

「ちょっと待って! え? なに? 天羽海道……な、なんて? それ苗字?」

「はい。天羽海道山岳丹波楢崎原口丸戸八代乱麻が苗字で、彰が名前ッス」

「長っ!?」

「よく言われるッス」

 お気楽に笑う。

「天羽海道山岳丹波楢崎原口丸戸八代乱麻くんは母子家庭で、今日、僕のクラスに転入してきたんだぞ」

「今日知り合ったのに、スラスラ言うわね!?」

「普通だと思うぞ? 僕のクラスの皆は全員もう言えるし」

「はは、珍しい苗字だから、すぐに覚えてもらえて楽ちんッスよ!」

「珍しいで済まないんだけど!? ……ええと、とりあえず彰くんで、いいかしら?」

「お、お姉さん!? いきなり名前呼びって、自分、ドキドキッスよ!?」

「姉ちゃん、いきなり口説きにかかってるぞ」

「単純に覚えにくいから、下の名前で呼ぼうとしただけよ!?」

「ダメッス。自分、女性の方に下の名前で呼ばれるのは、家族か生涯のパートナーだけって決めてるんでっ」

「面倒くさいわね!?」

「で、でも……お姉さんなら、別に――」

「わ、わかったわ! 苗字、ちゃんと覚えるから!」



 で、一ヶ月後。

「あら、天羽海道山岳丹波楢崎原口丸戸八代乱麻くんじゃない。……やっと正確に言えたわ」

「あ、お姉さん、ご無沙汰ッス!」

「姉ちゃん、その件だけど」

「? なによ?」

「自分が言うッス。実は先日、母が再婚しまして」

「え? ああ、確か、母子家庭って言ってたわね……って、もしや――!」

「この度、天羽海道山岳丹波楢崎原口丸戸八代乱麻 彰改め――はら しょうになりました!」

「やけに短い苗字になったわね!? 折角覚えたのに……」

「まあまあ。僕のクラス以外では、正確に覚えられた人はほとんど居ないことだし」

「弟の友達、という間柄だけなのに、正確に覚えてくれたお姉さんに、自分達から最近ハマってる賞賛を贈るッス!」

「? 賞賛?」


『ハラショ――ッ!』


「やっぱりそれ言っちゃうの!?」

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