その085「カラオケ大会(後)」

「姉ちゃん、大丈夫か」

 カラオケ大会が再開される中、僕は舞台控えで、満身創痍の姉ちゃんを呼ぶ。

「……病床の主人に寄り添うわんこにならなくても無事よ。心肺停止は免れたわ」

「そ、そこまでなのか……」

「次はあなたがこうなる番よ」

「ならないぞっ!?」

 と言いつつ、握手会の時のことを思い出すと、否定できないのが恐ろしい。

「っと、次、僕の番だ」

「私は満足したから、もう頑張らなくてもいいわよ?」

「……行ってくる」

 勝手なことを言ってる姉ちゃんはさておき。

 舞台を覗くと、『暫定王座』と札のある席で神様がエラそうにふんぞり返っており、

「――――」

 僕と視線が合った。

 神様、胡散臭い笑みを浮かべて、点数の方を指して見せる。


 ――少年、我を超えられるか?


 視線が、そう言っていて。

 僕の中で、火がついた。


 ――超えてやるぞ。


『最後の参加者となりました。どうぞ!』

 司会者からマイクを受け取って、僕は一息。

 いざ……!

『おや? お、音楽が、鳴らない?』

「!?」

 まさかの機材トラブル。

 本当に、カラオケの度に酷い目に遭うぞ……と言いたいけど、ここで仕切り直しは勢いが削がれる。

 曲を変えて、押し切る!


「――♪」


 独唱。

 目を瞑って、出来うる限りの声量で歌を響かせた。

『お~~』

 歌い終わり目を開けると、観客も司会者も拍手をしてくれた。

 上手くいった。

『注目の得点は……っと、得点が表示されません!」

 ただ、機材トラブルは継続中だった。

 ううむ、会心の出来だったが……。


「え? 神様?」


 と、いつのまにか、歩み寄ってきていた神様が。

 ――僕の手を取って、上にあげた。


「お主の勝ちじゃ。逆境の中、よくぞ歌い上げた」

 僕の勝利をマイクで宣言すると、観客から満場一致の拍手が起きた。

「いいのか?」

「構わぬ」

 それだけを残して、神様は去っていく。カッコいい。

『では、優勝賞品の授与です!』

 ともかく。

 町内の大会特有の簡素な賞品を受け取って、副賞のタカマとの握手になったけど。

 タカマは、僕の手を握りながら、


「――おまえ、面白いな」


「え?」

「優勝おめでとう!」

 意味はよく理解できなかったけど。

 面白い、という言葉が。

 舞台控えに戻った後も、何故か、僕の胸中に強く刻まれていて――

「……って、姉ちゃん何やってんの?」

 いつの間にか姉ちゃんが、さっきタカマと握手した僕の手を握っていた。

「手に残ってるタカマパワー、もらえるかなって……」

「さっき満足したって言ったでしょっ!?」

 余韻が台無しだぞ。

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