その084「カラオケ大会(前)」

「……姉ちゃん」

 今日も今日とて、僕は姉ちゃんのことを呼ぶ。

「なによ、夏の暑さに屋内メルトダウンのわんこみたいね」

「なんで僕はここにいるのかな?」

 今日は、町の野外広場で公募参加のカラオケ大会が開かれてるんだけど。

 僕と姉ちゃんも参加することになっていた。

「町のイベントに参加するくらい普通でしょ」

「姉ちゃんは別の狙いだろ」

 観客には、町の住民じゃない人も混じっていた。しかも九割が女性だ。

 それもそのはず――

「皆! 今日は、元気な歌声を俺に聴かせろよなっ!」

「タカマよ!? 流石のワイルドメンよ!?」

 デルタ☆アクセルの一人、タカマこと中条貴馬さんがゲストに呼ばれていた。

 姉ちゃんと観客達は歓声を送り、僕も僕で、先日の握手会を思い出して身震いした。

「優勝すれば、タカマ自ら賞品授与があるわ。握手付で!」

「姉ちゃんだけ参加でも良かったような」

「あなたが優勝したら、姉弟特権で握手のおこぼれを貰うつもりよ」

「汚いっ!?」

 だから僕も参加させたのか……。


『おおっ、初っ端から高得点だっ!?』


 舞台から司会者の驚きの声。

 見ると、一番手の女の子がマイク片手にドヤ顔をしていた。

「99点。まあ良しとするかのう、ククク」

 というか、神様(※その009参照)だった。

「あの娘、あちこちで活動してるわね」

「姉ちゃんの学校に通ってるんだっけ?」

「最近新たに部活を立ち上げて、部長をしているわ」

「神様、何やってんの……」

 ともかく。

 引き続き大会は進み、誰も神様の得点を超えないまま、姉ちゃんの番が来た。

「や、やるわよ……!」

「姉ちゃん、リラックス」

「そ、そうね」

 深呼吸して気持ちを落ち着かせ、舞台に臨んだけど、


「おれた↓ちのー↑、エ↓ンジ↑ンは~」


 盛大に音を外した。点数はもちろん最下位だ。

「おいおい、そりゃないわー」

「ま、頑張ったんじゃね?」

 しかも観客からの生温いざわめきを受け、追加ダメージ。

「…………」

 姉ちゃん、真っ白状態で舞台袖に去ろうとするも。


「静かにしろっ!」


 ゲスト席に居たタカマが、一喝でざわめきを制した。

「え?」

 そして姉ちゃんの前に歩み寄り、笑顔で親指を立て、


「おまえの歌、最高にクールだったぞっ!」


「――――」

 それを受け、姉ちゃんは、

「あ、真っ白から真っ赤になって……蒸化したっ!?」

 比喩ではなく文字通りの現象が起こって、会場騒然。

「ふ、またやっちまったか」

 そんな中、タカマだけが平然としていた。

 流石のワイルドメンだぞ……。

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