その083「トモさん」
「姉ちゃん姉ちゃんっ!」
「あっちゃんあっちゃん!」
今日も今日とて、僕はバイト中の姉ちゃんのことを呼ぶ。トモさんと一緒に。ちなみに『あっちゃん』は、トモさんが使ってる姉ちゃんのあだ名だぞ。
「山での遭難中に、野わんこの団体に遭遇した気分ね。少し待ってて」
今日は店内が結構盛況していて、姉ちゃん忙しそう。
マスターや奥さんも、手が放せないようだ。
「注文決まった?」
「抹茶金時だぞっ」
「トモさんは?」
「イチゴかき氷っ」
「わかったわ」
奥に注文を伝えにいく姉ちゃん。
最近バランスが良くて、転ぶことがなくなっているぞ。
「あっちゃん、成長したなぁ」
「トモさんもそう思う?」
「苦手克服のために努力する娘だから、感慨もひとしおだよ」
「ババくさいこと言ってるぞ」
「それだけ、あの娘のこと大好きなのよ」
「わかるぞ」
「……ウチとしては、成長して貰わんと困るねんけどな」
と、店のマスターがやってきた。
「ほれお嬢、イチゴ」
「お、キタキタ」
「坊の抹茶もな」
「サンキュー、おじさん」
マスターが忙しなく去っていくのを見送りつつ。
二人揃って、スプーンで掬って口に運ぶと、
『う~~ん』
うまい。
「やっぱ、夏はかき氷だぞ」
「そだねー。弟くん、抹茶好きなの?」
「クセになる味だからさ」
「その歳から渋いね。イチゴ味も美味しいよ?」
「そうか?」
「はい、あーん……なんつって」
おどけた様子で、トモさんがスプーンで一口掬って差し出してくるのに、
「ん」
僕は遠慮なく頂いた。
うむ、中々。
「ん? どうした、トモさん」
一方トモさん、顔が赤くなっていた。
「……冗談の、つもりだったんだけどね?」
「そうだったのか? じゃ、僕からお返し」
「!」
僕は自分の抹茶をスプーンで掬って、トモさんに差し出す。
「あーん」
「う……」
「ほら、溶けちゃうよ。あーん」
「……あ、あーん」
震えながら、トモさんは抹茶を食べた。
「美味しい?」
「やばい。案外恥ずかしくて、味がわからない……!」
「? もう一口、食べる?」
「だ、大丈夫! 大丈夫だから!」
すごい勢いで拒否られた。
「……弟くん、わりと天然で年上キラーだね」
「?」
トモさんの様子に釈然としないまま、僕は抹茶を食べようとするんだけど。
「あ」
スプーンを落としてしまった。
すぐに拾い上げたものの、それを使う気になれなかったので、
「トモさん、使ってるスプーン、借りていい?」
「それがだよっ!?」
「ええっ、何が!?」
今日は、トモさんがよくわからないぞ……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます