その082「動画」

「……姉ちゃーんっ!」

 今日も今日とて、僕は姉ちゃんのことを呼ぶ。

「ゾ、ゾンビ映画で不意打ちで現れる、モンスターわんこみたいな凄みを利かせないでくれる?」

「最近ホラー動画にハマっててさ。ユウくんがオススメしてくれて」

「ゆ、ユウくんって……あの、幽霊の?」

「姉ちゃんも一緒に見る?」

「見ないわっ!」

 すごい拒否姿勢だったぞ……。

 結局、僕は自室で一人、タブレットで動画を楽しむことになったんだけど。

「ふぁ……いいところで、うむぅ……」

 時間が経つにつれて、溢れる眠気に耐えきれず――

 …………。

 ……。

「ちょっと!」

「あっ」

 気がつくと、青ざめた顔の姉ちゃんが僕の部屋に居た。

 時計を見ると、深夜二時だ。

「動画再生したまま寝落ちしないでよ!? トイレに起きたら、部屋からホラーな音声が聴こえてきて……す、すごく怖かったんだけど!?」

「おおぅ」

 どうやら、エンドレス再生していたようだぞ。

「ごめんごめん。お詫びに姉ちゃんのトイレに付き添うぞ」

「いらないわよ……ん?」

「? どうした姉ちゃん……お?」

 と、姉ちゃんの視線の先、


 ――動画に映るゾンビが、タブレットの中から出てきそうになっていた。


「ひ……ぎゃああああっ!?」

 姉ちゃん、ガチ悲鳴。

「落ち着け姉ちゃん。3D映像だぞ」

「あなたはあなたで落ち着きすぎでしょ!?」

「だってほら、停止ボタンで」

 タップすると、ゾンビが止まった。

「それにプレイヤーを閉じると」

 さらにタップすると、3Dゾンビは消えてなくなった。

「そ、そういうことか……び、びっくりしたわ」

「ユウくんが、とっておきって言ってたぞ」

「……流石と言わざるを得ないわね。あなたの友達、分野に突出したの多すぎでしょ」

「僕の自慢の友達だぞっ。……ところで姉ちゃん、トイレは大丈夫? 漏らしてない?」

「っ! も、も、漏らしてないわよっ!」

 顔真っ赤にした姉ちゃんに、はり倒されてしまったぞ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る