その080「水着」

「姉ちゃん姉ちゃんっ!」

 今日も今日とて、僕は姉ちゃんのことを呼ぶ。

「その、ヒモみたいなものを前に、いやらしい想像で興奮を隠しきれないわんこのようになってるわよ」

「姉ちゃんこれ着るのか?」

「着ないわよ! そ、そんな、破廉恥なっ」

 水着コーナーの展示品の一つを見て、姉ちゃん顔真っ赤だ。

 七月の連休に海水浴に行くことになったので、今日は、新しい水着を買いに来てるぞ。 

「やっぱりワンピースかしら。ビキニは、私には難しいわ」

「お腹出ちゃうから?」

「ち、違うわよ!?」

「じゃ、これとか似合うんじゃない? フリフリしてて可愛いぞ」

「お……こ、これは中々……うーん」

 気に入ったらしいけど、迷ってるぞ。

 姉ちゃんが悶々とし始めた矢先、

「おや、ワンワンに姉くんじゃないか」

 偶然通りがかったらしい、僕の友達の男装女子こと、王子が話しかけてきた。

「おっす、王子」

「やあ、ワンワン。キミ達も水着を買いにきたの?」

「うん。僕はもう決まったけど、姉ちゃんが足踏みしてるぞ」

「へぇ」

 王子、展示されているフリルビキニと悩み中の姉ちゃんとを交互に見て、柔らかに笑う。

「ボクは、姉くんに着たいものを着てほしいな」

「王子くん?」

「姉くんは自分で思ってるよりもずっと魅力的だから、きっと似合うよ。だから自信を持って。ね?」

「な――」

 王子の言葉に、姉ちゃんは真っ赤になった。

 相変わらずのスケコマシっぷりだぞ。

「そうだ。ボクも今から試着するから、見てくれる?」

「え、ええ」

「少し待ってて」

 そう言って、王子は試着室に入っていく。

「……年下の子に背中を押されるなんてね」

「王子はいつもそうだぞ。僕も結構助けられてるし」

「その辺は流石だわ……それにしても王子くん、どんな水着なのかしら」

「僕よりも背が高いしなー。胸は大きいわけではないけど、姉ちゃんよりかは……あ、ごめん」

「ごめんじゃないわよ!?」

 と、なんだかんだ言ってるうちに、

「――おまたせ」

 王子が、試着室から出てきた。


「上はサラシで下は褌っ!?」


 完全に予想外だった。

「どうかな?」

「王子くん、アイドルの卵でしょ!? ビジュアル的にどうなの!?」

「イケメン路線もいいけど、ワイルド路線も興味あるからねっ」

「確かに鍛えてる感が出てるぞ。だから胸も姉ちゃんを……あ、うん」

「あんたいい加減ぶっ飛ばすわよ!?」

「姉くんも締めてみる? リバーシブル・ツー褌エディション! ……有りだね」

「絶対に無しよっ!?」

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