その079「ババ抜き」

「姉ちゃん姉ちゃん」

 今日も今日とて、僕は姉ちゃんのことを呼ぶ。

「主人の作業中に構ってオーラで横やりを入れるわんこのように呼ばないで」

「お姉さんの番ですのよ」

 今日はいいんちょを家に招いて、三人でババ抜きをしているぞ。

「また引かされた!?」

「ご愁傷様ですわ」

 で、僕は先にあがって、残りは姉ちゃんといいんちょの状況なんだけど。

「クラブの7は、これですの」

「なっ!?」

 いいんちょ、姉ちゃんから確実に欲しい札を取っているぞ。

「ここで引かせないと……!」

 姉ちゃんが忙しなく視線を動かして、札を構えるも、

「これですわ」

「あーっ!?」

 いいんちょが最後の札を揃えた。

 姉ちゃん、これで三回連続最下位だ。

「も、もう一回!」

「まだやんの?」

「最下位脱出しないと、終われないわ!」

「お付き合いします」

 で、四戦目。

「ハートの6」

「ぐっ」

「ダイヤのQですの」

「なんでっ!?」

 いいんちょ、またも宣言通りに札を揃えてるぞ。

「目線で、大体わかりますのよ」

「でも、内容まで言い当てられるものなの?」

「愛の力ですわっ」

「どういうことなの!?」

「僕はもう上がりだぞ」

「あなた普通に強いわねっ!?」

「お姉さんと、また二人きり……!」

「委員長ちゃん、もしかしてわざと!?」

 残り札は、姉ちゃんが二枚でいいんちょが一枚。

 ジョーカーは姉ちゃんの手中だ。

「……目線がどうって言ってたわね」

 と、姉ちゃんは札を構え、

「さあ、終局で……す、わ?」


 ――視線を、いいんちょの目に真っ直ぐ向けていた。


「……!」

 いいんちょ、集中力を失って、ジョーカーを取ってしまう。

「よし、作戦成功! これで……!」

「さ、させません」

 いいんちょは札をシャッフルさせて、

「な!?」

 またもジョーカーが姉ちゃんに渡る。

「う……」

 しかし、姉ちゃん再度の視線攻撃に、いいんちょも正解を取れない。

 そんなジョーカーのやり取りが数回続き、姉ちゃんの番になったところで、

「委員長ちゃん」

「え?」


 ――姉ちゃん、いいんちょに向かってウインクした。


「――――」

 ぶっ!

 いいんちょ、大きく仰け反って、手札をバラ撒きながら昏倒。

「おおぅい!?」

「ふ、勝ったわ」

 バラ撒かれて落ちてくる正解の札を取って、姉ちゃん、したり顔である。

『……その不意打ちは、強烈ですのよ』

「いいんちょ、また魂出てるぞっ!?」

「勝負の世界は非常よね……」

「姉ちゃん、遠い目してないで、介抱手伝って!」

 そこまでするか……姉ちゃん時々恐ろしいぞ。

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