その078「挑発」

「姉ちゃん姉ちゃんっ!」

 学校の帰り道、トモさんと一緒の姉ちゃんを見かけたので。

 今日も今日とて、僕は姉ちゃんのことを呼ぶと、

「あ、弟くんだっ! やっほーいっ!」

 トモさんが勢い良く僕に飛びついて、


 スッ


「な……か、かわされたっ!?」

 悲鳴と共に、地面を滑っていった。

「……日常の荒事に慣れを見せるわんこの動きだったわよ、今の」

「僕も日々成長してるってことだぞ……うっ」

 と、勝利を噛みしめたところ――後ろから、僕をホールドする腕が。

「じゃ、あたしも成長しないとですなぁ」

「ふ、復帰早っ!?」

「その手始めに……うりゃりゃりゃっ!」

「あ、トモさ、やめ、あ、アッ――!?」

「……すっかり仲良しね」

 姉ちゃん、ボヤいてないで、助けてほしいんだぞ。



 そんなこんなで、一緒に帰ることになった。

「聞いてよ弟くん、この子今日、体育終わった後の着替えで、スカートのファスナー閉じるのに時間かかっちゃったんだ」

「な、内緒にしてって言ったでしょっ!?」

「姉ちゃん、またダイエット始めてたもんなー」

「で、デルタ☆アクセルが新しいコラボ始めたから、仕方ないでしょ!」

「何かの所為にしてるうちは、同じこと繰り返しそうだね」

「そのわりに上の方は……まあ、うん」

「殴るわよ!?」

 姉ちゃん、蹴ってる蹴ってる。

「反面、トモさんは大丈夫そうだぞ」

「ん、あたしも最近、少しキツいんだよね。お胸のあたりが」

「なっ……ま、まだ、成長中なの!?」

「す、すごいぞ……」

「弟くん、なんなら触ってみる?」

 と、色っぽくかつ、挑発的なポーズを取るトモさん。

 制服の上からでも、こんもり膨らむお山を見て、

「――――」

「なーんて、冗談冗談……え?」

 ついつい。

 両手を埋めようとする、寸前――


「っ!」


 トモさん、劇的な速度で後退した。

「え?」

「…………」

 しかも、涙目でこちらを見てきた。

 ……すごく、乙女な反応だった。

「最低ね」

 その傍ら、姉ちゃんが豚を見るような目で僕のことを見ていた。

「あ、いや、違くて! それにまだノータッチ!」

「未遂でもギルティよ」

 取り付く島もない。

 しかも、

「弟くん」

 トモさん、涙目だけど、熱っぽくこちらを見てきて、


「――責任、とってね?」


「トモさん、何言ってんの!?」

「ふーん……い、いいんじゃないの。最近仲良いし、つ、つ、付き合ってしまえば」

「姉ちゃん、なんで言葉に詰まりながら不機嫌になってんの!?」


 教訓。

 どんな局面でも、挑発に乗ると酷い目に遭うんだぞ……。

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