その072「連鎖」

「ね、姉ちゃん姉ちゃんっ!」

 今日も今日とて、僕は姉ちゃんのことを呼ぶ。走りながら。

「リードを千切らんばかりの最高潮わんこのように呼ぶ暇があったら、走りなさい。もうすぐ出発してしまうわっ」

「とか何とか言いつつ、姉ちゃんの方が遅れてるぞっ」

「う、うるさいわよっ」

 今日は二人で、電車で遠出することになってたんだけど。

 姉ちゃんが動画サイトのデルタ☆アクセルのライブ生放送一挙中継で夜更かしして、それに僕も付き合わされたのが原因で、二人揃って寝坊してしまったぞ。

 遠出先で叔母と待ち合わせしているため、遅れるのは避けたい。

「姉ちゃん、改札こっちだ!」

「わかってるわ……って、寸前の人が券詰まり!?」

「ぬぅ!」

 障害に阻まれながらも、何とか改札を抜けて、ホームへの階段を登るも。

 電車は、僕達の寸前で発車してしまった。

「か、改札さえスムーズに行っていれば……」

「ううむ、次の快速は十五分後か……」

「……この便を逃したとなると、乗り換えが厳しくなるわね」



 で、次の電車の乗り換えにて。

「行くぞ姉ちゃんっ」

「って、これまた下りの階段が混んでるわ……!」

「ぬぅ……よし、下りた! 通路は空いてるぞっ!」

「OK、走るわよ……きゃんっ!?」

 姉ちゃん、痛恨の転倒。

 幸い怪我はなかったけど、またも寸前で目的の便を逃したぞ。



「と、とりあえず、バスには間に合わせないと。何分に来るか、わかる?」

「この電車の到着予定の……一分後、だぞ……」

「絶望的すぎる!?」

 もちろん、間に合わなかったぞ。



 で、最後のバスの中。

「最初の十五分の遅れが、まさか向こうでは一時間の遅れになっちゃうなんてね……」

「負の連鎖の恐ろしさを存分に味わった気がするぞ……」

 僕と姉ちゃん、バスの座席で既に満身創痍だった。

「ところで姉ちゃん、叔母さんに遅れるって連絡した?」

「さっきからしてるんだけど、全然電話繋がらないのよね。メールも返信がないし」

「ん? どういうことだ……お?」

 と、そこで、姉ちゃんのスマホが短く振動する。

 どうやら、返信が来たようだぞ。


『ただいま起床したぞ! 今から準備だ! 真打ちは満を持して登場するものだよな、ふははははははっ!』


『……………………』

 二分ほど沈黙して。

「あ――――っもう! 毎度毎度、あの遅刻王女は!」

「姉ちゃん落ち着けっ」

「帰るわよ、今すぐに! バスをUターンさせてでも!」

「気持ちはわかるけど、それはダメだぞっ!?」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る