その071「カラオケ2」

「……姉ちゃん」

 今日も今日とて、僕は姉ちゃんのことを呼ぶ。

「なーに、迷子の子猫に遭遇して困ってしまうわんこみたいよ」

 今日は僕と姉ちゃん他、多人数でカラオケに来てるんだけど、

「この前(※その045参照)のこともあって、気乗りしないぞ……」

「今日は自重するわよ。それにお友達もいるでしょ」

「むぅ」

 頷いて、室内にいる友達を見渡す。

「わたくし、お姉さんの隣が良かったのですけど」

「細かいことを気にせず楽しめばいいさ」

「……ん」

 いいんちょ、王子、ヤッくんの三人。

「改めて見ると、濃いメンツね」

「弟くんの交友関係も侮れないね」

 年上組は姉ちゃんとトモさんで、僕を合わせて六名だ。

「じゃ、あたしから行きまーす」

 トモさんが先頭を切る。曲は知らないけど、テンションの高いナンバーだ。

「ボクも負けてらんないっ」

「お姉さんにいいところ、見せますわよっ」

 皆も皆で得意曲を披露し、場はいい感じに盛り上がる。

 ヤッくんだけは奥手な性格もあって歌わなかったけど、楽しそう。

「次は私ね」

 良いムードの中、姉ちゃんの番。曲はデルタ☆アクセルの――

「姉ちゃん、それ歌詞なしの曲」

「いい曲でしょ?」

「カラオケでやってどうすんの……って、皆聴き入ってる!?」

 ……いいのか、これ。

「次はボクだね」

 今度は王子の番。しかしマイクは持ってない。

「な、なんでダンスナンバー?」

「踊りたくなったからさっ」

「ええ……って、皆ダンスに見とれてる!?」

 王子は存分にキレのある動きを見せた。

「わたくしの番ですわ」

 次のいいんちょは、

「クラシック!?」

「休憩をと思いまして」

「だからこれカラオケ……皆リラックスしてるっ!?」

 な、何かがおかしい。

「……ん」

 お、ヤッくんが遂にマイクを取った。

 選曲は僕も知ってる曲で、ちゃんと歌詞がある。これは期待でき――

「……………………」

「ヤッくん、寸前で恥ずかしがらないで!?」

 マイクを手に固まって、歌えないまま曲が終了した。

「変化球好きだねー、皆」

 次はトモさん。

 この人なら、空気を変えてくれるという期待で、モニターを見ると、


『歌手の意向により、歌詞を入れておりません』


「トモさ――ん!?」

「大丈夫。歌詞がなくても歌える!」

 本当に歌ってしまうトモさん。

 そんな異様な盛り上がりの中、僕の番になったんだけど、

『…………』

「その空気読めって視線ヤメテ!?」

 普通に歌ってるのに、このアウェイ感。

 何故か僕、カラオケに行くと酷い目に遭うぞ……。

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