その073「お姫様抱っこ」
「姉ちゃん姉ちゃん」
今日も今日とて、僕は姉ちゃんのことを呼ぶ。
「なによ、大穴を前に一か八かのジャンプを決めるか迂回するかを迷うわんこみたいね」
「うん、お父さんが買った雑誌に書いてることが、気になって」
「なになに……お姫様抱っこ特集? ……何これ」
「男らしさをアピールするのに必要かなって」
「……興味ないわ」
「友達がデルタ☆アクセルの新しい缶バッジ譲ってくれたから、それd「付き合うわっ!」
姉ちゃんの音速反応芸、もはや鉄板だぞ。
というわけで。
姉ちゃんの肩と膝裏に手をやって、抱き上げると、
「お、案外軽い」
「案外って何よ」
「姉ちゃん、最近体重の増減が激しいから」
「うぐっ……い、今はちゃんと戻ってるわよ」
「うん、楽ちん」
そのまま、スキップしたりも出来るぞ。
「……なんだか、恥ずかしくなるわね」
「僕は余裕だぞ」
「わ、私が余裕なくなってきたの。そろそろ降ろして」
「姉ちゃん、動くと手が胸に当たっちゃう」
「っ!」
「あ、でも、感触はそんなに……」
「ぶっ飛ばすわよっ!?」
そんな風にわいわいやってると、
「……ご飯時だから呼びに来たんだが。本当に仲良しだな、おまえら」
お父さんが部屋の入り口で、首を傾げていた。
「あ、お父さん」
「こ、これは違うのよ!?」
姉ちゃんが慌てて弁解するも、お父さんは苦笑い。
「わかってる。昨日買った雑誌に載ってたのを試してるんだろ?」
「え?」
「おお」
お父さん、察しが良い。
「ふむ、なかなか様になってるな」
「うん、男らしいだろっ」
「ふ、調子に乗るなよ」
そう言って、
「きゃっ」
「おおぅ」
お父さん、僕を姉ちゃんごと持ち上げて見せた。
「大口叩くなら、これくらい出来るようになろうな」
『……はい』
僕だけでなく、姉ちゃんまで思わず返事してしまったぞ。
「早く降りて来いよ」
と、僕と姉ちゃんを降ろして、部屋を出るお父さん。
その後ろ姿を見て、
「お父さんカッコいいぞ……」
「昔を思い出したわ。よく抱っこしてもらったっけ」
僕と姉ちゃん、お父さんへの尊敬を共有してたんだけど。
先に言われた通り、ご飯の時間なので、二人でリビングに行くと。
「……腕が、つった」
「もう。見栄っ張りなところ、昔からね」
――うずくまって涙目になるお父さんと、それを介抱するお母さんの姿があった。
「……お父さんカッコ悪いぞ」
「昔を思い出したわ。カッコ付けて、よくボロを出してたっけ」
「こ、子供達? 株価が底割れしたような視線を感じるのだがっ!?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます