その069「仲裁」

「あ、姉ちゃん姉ちゃんっ!」

 帰り道、今日も今日とて、僕は姉ちゃんのことを呼ぶ。

「どうしたの、闘犬の場に放り込まれて縮こまるわんこみたいよ」

「こっちだ」

「え?」

 姉ちゃんを引き連れて、その場に急行する。


 そこでは――王子といいんちょが、険悪に睨み合ってた。


「何、この状況」

「一緒に帰ってる途中で、二人が喧嘩を始めちゃって。何とかしてくれ姉ちゃん」

「……しょうがないわね」

 姉ちゃん、困惑気味だけど引き受けてくれるようだ。

「こら、仲良くしないとダメでしょ」

「あ、聞いてよ姉くん、いいんちょがボクを否定するんだ」

「お姉さん、王子がわたくしの話を聞き入れませんの」

「いいんちょが!」

「王子が!」

 取り付く島もない。姉ちゃん、一息吐いて、

「わかったわ。落ち着いて、一人ずつ話を聞かせて」

『……それなら』

 おお、二人とも大人しくなったぞ。

「まず王子くんから」

「うん。先日の男装の件から、姉くんはメンズ路線を突き進むべきだっ!」

「何の話!?」

「姉くんの魅力を高める談義だよ?」

「そんなことで喧嘩してたの!?」

「大事なことですの! 殿方路線はいけません。世の女子がわたくしのようにショック死します!」

「そんな理由!?」

「ですので、お姉さんは可愛らしさで――」

「否、男装を――」

「スト――ップ!」

 姉ちゃん、真っ赤になりながら競り合いを止める。

「勝手に私の路線を決めないで。私は私で日頃、どうすればいい女になれるか考えてるんだから」

「姉くん」

「お姉さん」

「でも、その気持ちは嬉しいわ。……ありがとね」

『――――』

 王子といいんちょ、電撃を受けたかのように目を見開いて、


「ボク達の思いを受け止める包容力と」

「同時に見せる可愛らしさ」

『これだね(ですわ)!』


「え、オチが付いてないんだけど」

「いいのさ、これで」

「いいですの」

 和気藹々とする二人。本当に解決しちゃったぞ。

「……あなた達がいいならそれでいいけど、喧嘩はダメよ」

「うん、姉くんファンクラブNo2のボクと」

「No3のわたくしが争っていては、駄目ですわね」

「いつの間にそんなの出来てたの!?」

「ずっと前だよ?」

「ずっと……って、No1は誰?」


「僕だぞっ!」


「なんで弟が姉のファンクラブ入ってんの!?」

「好きだからっ!」

「っ……ま、また直球な答えを」

「ワンワン、抜け駆けはダメだよ」

「わたくしも、お姉さんのこと……!」

「待って、三人揃って迫ってこないで!? 私どうすればいいの!?」

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