その067「友達7」


「姉ちゃん姉ちゃんっ」

 今日も今日とて、僕は姉ちゃんのことを呼ぶ。

「もはや定番となりつつある、この新発見を伝えるわんこ模様は」

「新しい友達だぞっ!」

「…………」

 姉ちゃん、何故か二、三ほど深呼吸して、

「……来なさい」

「なんで、そんなに腰を据えてるんだ?」

「もう、何が来ても驚かないわよ」

 そう言って、僕から受け取ったスマホを見て、


「ヤの付く自営業の人が映ってる――っ!?」


 一秒も経たずに驚いたぞ。

「いやだなぁ、姉ちゃん。そりゃ、少しだけ強面だけど」

「少しどころじゃないわよっ!?」

「服装がカラフルで、サングラスも似合うオシャレ好きだし」

「ヤバさが増してるんだけどっ!?」

「坊主頭もカッコいいし」

「坊主じゃなくてスキンヘッドだからっ!?」

 ううむ、この誤解を解くにはどうすればいいんだ。

「やはり、実際に会ってみるしかないな」

「いやよっ!?」

「と言いつつ、実はもう連れてきてるぞ。ヤッくーん」

「!?」

 控えていた友達――ヤッくんに手招きをすると、ヤッくんは無言で、のっそりと部屋に入ってきた。

「ヤッくんだぞ」

「ひいいぃぃ!?」

 実物を前に、姉ちゃん、超後退り。

「ほら、ヤッくん、自己紹介」

「…………」

 ヤッくんは無言のままで、姉ちゃんの前に立つ。

「…………あ、わ……わ……」

 蛇に睨まれた蛙のごとく動けない姉ちゃんに対し、ヤッくんは、


「ん」

 懐から、子犬のぬいぐるみを取り出して、姉ちゃんに差し出した。


「へ……?」

「お近づきの、しるしに」

「は、はぁ……はい?」

「では、自分はこれにて。今日は挨拶だけで」

 そう言って、ヤッくんは部屋を出ていった。

「またなー、ヤッくん」

「…………」

「どうした姉ちゃん、ボーッとしてるぞ」

「いや、どう反応を返したらいいのやら……って、このぬいぐるみ、やたら出来がイイわね」

「ヤッくんの手作りだぞ」

「手作り!?」

「趣味は裁縫と料理と小物集めだぞ」

「なにその少女趣味!?」

「あとは……お、ヤッくんが帰って行くぞ」

「え?」

 そう言って、ふと、姉ちゃんは窓の外を見ると、


「――両手で顔を押さえて、赤面ダッシュしてる!?」


「結構、恥ずかしがり屋さんなんだぞ、ヤッくん」

「恥ずかしがり屋って……」

「でも、僕と同じで誰とも友達になりたくて頑張ってるから、仲良くしてやってほしいなっ」

「……ノーサンキュー、とは言えないわね」

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