その066「野望」


「姉ちゃん姉ちゃ――」

 今日も今日とて、姉ちゃんのことを呼ぼうとして、僕は固まった。

「弟くんキタコレ!」

 以前、僕を骨抜きにした姉ちゃんの友達が居たからだ。

「うん、相変わらずの抱き心地っ!」

「むぅ……!」

 有無を言わさず抱き締められ、頭を撫でられる。

 ツボを押さえていて、気持ちよくて、力が抜け――

「やめなさい」

「っ!」

 姉ちゃんの声で活力を取り戻し、僕はその腕から何とか退避した。

「ウゥゥゥ!」

「お、猛犬に対して威嚇で虚勢を張るわんこみたいだね。コワクナーイ」

「十分怖いわよ、トモさん」

「ヱー」

 トモさんと呼ばれた姉ちゃんの友達は、不服そうにしながらも、すぐに笑顔に戻る。

「ほら弟くん、お話しよっ」

「ウゥゥ」

「ね?」

「…………」

 その仕草に危険がないと判断し、ようやく僕はトモさんと向き合う。

 で、改めてお互いに自己紹介をして、トモさんと話してみると、

「この娘ったら、うちのクラスでも愛されててさ」

「主にトモさんが焚き付け役でしょ!?」

「でも姉ちゃん、家でもそんな調子だぞ」

「裏表なく愛せる娘って、いいよねっ」

「ねっ」

「意気投合すんなっ!」

 打ち解けるのに時間はかからなかったぞ。

「そういえば弟くん、好きな子っている?」

「姉ちゃんだぞっ」

「そ、そういうの、やめなさいって……!」

「直球だねぇ。彼女とか、欲しくないの?」

「んー、よくわからないぞ」

「ふむ……ねえ弟くん、あたしなんてどう?」

『え?』

 トモさん、突然の提案だぞ……!

「あたし、弟くんのこと結構好きなのよね」

「で、でも、僕まだ小学生」

「愛に歳の差はないよ」

 色っぽく迫ってくるトモさんに、僕は釘付けになる。

 美人だし、背は高いし、おっぱいも大きいしで。

「ね、弟くん」

「――――」

 さらにすり寄るトモさんに、僕は――


「ダメよ」


 と、姉ちゃんが、間に割って入ってきた。

「なんで?」

「ダメだから」

「理由になってないよ」

「う……とにかくダメなの!」

 無茶苦茶だけど、僕を守ろうとする姉ちゃんのその必死さが、何だか嬉しい。

「ふ。さすがに、この尊い姉弟仲は引き裂けないわ」

 トモさん、降参のポーズをするも、僕達に優しい笑顔を向ける。

「だからずっと、仲良しのままのキミ達で居てねっ」

「トモさん」

「……当然だぞっ」

 その笑顔に、僕達もつられて気を緩めようとしたところで、


「そんな仲良しの二人まとめて、あたしが貰い受けるつもりなんでヨロシク!」


『お断りよ(だぞ)っ!?』

 台無しな人だぞ。

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