その065「抽選」


「姉ちゃん姉ちゃん……って、速っ!?」

 今日も今日とて、僕は姉ちゃんのことを呼ぶんだけど。

 姉ちゃん、目にも映らないスピードでスマホを操ってた。

「あら、ちょうどいいところに来たわ。正に、おつかいを頼みたい時に事前スタンバイしているしっかり者わんこの如しね」

「その指捌き、音ゲーじゃないみたいだけど……なにやってんの?」

「次のデルタ☆アクセルのライブの、ファンクラブ先行抽選に申し込んでるの。今日申し込み解禁だからねっ」

「そうなのかー。で、ちょうどいいところに来たって言ってたけど、どういうこと?」

「ああ、あなたのメアドでもファンクラブ登録してるから、あなたからも申し込み手伝ってもらおうって思って」

「僕の承諾ナシで何やってんの!? そこまでやるか!?」

「抽選の競争率千倍超だから、少しでも確率上げないといけないのっ」

「そ、そんなに入手困難なのか……」

「だからお願いよっ。協力して? 一生のお願い! ね? ね? 何でもするから! お願いだから!」

「姉ちゃん、一生のお願い何回使ってんのっ!?」

 と、押し切られる形で、僕も手伝ったわけだけど。



 二週間後。

「抽選外れたわ……」

「僕は当たったぞっ!」

「でかしたぁっ!」

「おおぅっ!?」

 熱烈なハグをいただいたぞ。結構いい気分。

「ただ、友達が全滅だったのよね。一般の一次抽選、友達分も手伝ってくれる?」

「いいぞっ」



 もう二週間後。

「ま、また外したわ……」

「当たったぞっ!」

「最高よっ!?」

 またもハグをいただいたぞ。

「うーん、友達と連絡したんだけど、あと二人分足りないみたいだわ。最終の二次抽選で、もう一回協力頼める?」

「了解だぞ」



 更に二週間後。

「抽選当たったわ!」

「僕もだぞっ!」

「あなた神様ねっ!? でも、これだとちょっと余ってしまうわね……あ、はい、もしもし?」

 と、姉ちゃんに電話がかかってきたところ、


「――え? 全員当たった!? マジなの!?」

 この局面で、使ってはいけない運が!?


「……結局、十枚余ってしまったわ」

「十枚!?」

 勿体なさ過ぎる。

「……どうすんだ姉ちゃん」

「……………………」

 姉ちゃん、超悩む。

「……お友達、この前よりも多く連れてきなさい。この際、巻き込んでやるわ」

「代金は?」

「奢りよ」

「交通費は?」

「っ……出すわよ!」

「おおっ!」

 姉ちゃん、大英断。


 結局。

 余った分の代金は姉ちゃんの友達同士で折半したらしいけど。

 それでも姉ちゃん、しばらくの間、金欠で涙目だったぞ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る