その063「涙」


「お。姉ちゃん姉ちゃんっ!」

 自転車でのお出かけの帰り。

 野球をしている人達で賑わう河川敷の道沿いで、姉ちゃんのことを見かけたので、今日も今日とて僕は姉ちゃんのことを呼ぶ。

「あら、遠距離から全力ダッシュしてきて飛びついてくるわんこのような駆けつけ方……危ないっ!?」

「え?」

 姉ちゃんがせっぱ詰まった顔をしてるから、僕は一瞬その理由がわからなかったけど。


 ――河原の方角から、野球のボールが僕の頭部へと飛んできた。


「おおぅっ!?」

 僕は身を反ってボールをかろうじて避けるも、バランスが崩れる。

「お、わ、わ、わっ!?」

 速度が乗ったまま道のコースを外れ、自転車ごと河原の方角へとジャンプ。

 純愛とき●きサイクリングー……なんて言ってる場合じゃない。

「うっひゃあああっ!?」

 川近くの草地に斜めから着地して、ゴロゴロゴロと視界を幾度も回転させて、やっと止まった。

「いててて……」

 身体のあちこちが痛い……けど、予想よりは軽傷だった。すり傷もないようだぞ。

「ちょっと、大丈夫なの!?」

 と、姉ちゃんが階段を下りて、僕の元にやってくる。

「ふぃー、平気だぞ」

「ほ、ホントに?」

「ピンピンだぞっ」

「…………そう、なの」

 姉ちゃん、ようやく緊張を解くも、


「あ……」

 ――その目から、大粒の涙がこぼれだした。


「え。ね、姉ちゃん?」

「うっ……!」

 そして、力一杯、僕に抱きついてきた。

「バカ……心配、したんだからね」

「姉ちゃん」

「よかった……何もなくて、よかったよぅ……ぐすっ……」

「……姉ちゃん」

 なんだか――とても、温かな気持ちになったぞ。

「僕は、姉ちゃんの前から居なくなったりしないぞ」

「うぅ……ひっく、ふええぇぇ……」

「よしよし、大丈夫、大丈夫だぞー」

「ずび……チーーンッ!」

「おおぅい」

 姉ちゃんをあやす傍ら、『すいません、大丈夫ですか!?』と河原で野球をしていた人達の声が聞こえてきた。



 で。

「あのー、姉ちゃん?」

「なによ」

「僕、友達の家に遊びに行きたいんだけど、なんでくっついてくるのかな?」

「くっついてないわよ」

「でも、そのように袖を掴まれてると、動けないんだけど」

「なんだか、今日は一緒に行かないといけない気がしたからよ」

「いや、大丈夫だから」

「行かないといけないのっ!」

「お、おう……」

 そんな姉ちゃんの心配性は、三日くらい続いたぞ。

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