その062「色」


「姉ちゃん姉ちゃんっ!」

 今日も今日とて、姉ちゃんのことを呼ぶ。

「なーに、初対面の余所の子を、匂いを嗅ぐことで品定めするわんこみたいになってるわよ」

「んー、姉ちゃんなら貴重な意見を聞かせてもらえるかなと思って」

「意見?」

「この絵の宿題なんだけどね」

 そう言って、僕は絵の具塗りかけの画用紙を姉ちゃんに見せる。今回は風景画だぞ。

「上手く描けてるじゃない。海岸の風景っていうのがまた渋いわね」

「描けてるのは良いけど、この地平線の辺りを、夜明けの色でもっと上手く現したいんだよ」

「レベルの高いこだわりをしてるわね」

「で、今、パレットで色を作ってるんだけど、こんな感じで良いかなって」

「ふむ……素人アドバイスだけど、いい?」

「どんどん言ってくれっ」

 そんな感じで、二人で絵の具の色を調整していって、

「これ、いいんじゃない?」

「いいと思うぞっ」

 お互いに納得のいく色が出来上がった。

 実際に塗ってみても、いい感じに絵に合ってるぞ。

「ありがと、姉ちゃんっ。これで宿題も順調に行くぞっ」

「ん、満足いったようでよかったわ」

 姉ちゃんも嬉しそうだぞ。

「……にしても、この色、なんて言えばいいんだろ」

「え? 紺色じゃないの?」

「んー、単に紺色だとなんだか物足りないぞ」

「じゃあ、青紫色……っていう感じでもないわね」

「どっちかっていうと黒にも近いし、もっとこう、カタカナで現せないかな」

「カタカナで、夜闇から夜明けの移行となれば……」

 姉ちゃん、ちょっと考えて、


「――ミッドナイトダークネスブラックって感じかしら」

 そんな名前が飛び出した。


「え、姉ちゃん、なにそのカッコいい色」

「……あ。い、今のはナシ。だめ。ナシよ」

 どうにも恥ずかしくなったようで、姉ちゃんは顔を赤らめながら取り消そうとするも、

「いや、僕は気に入ったぞ、ミッドナイトダークネスブラック! ミッドナイトダークネスブラック色!」

「連呼しないで!?」

「学校でも、この色をこの名前で通すことにするぞっ!」

「ヤメテ!?」

 とまあ、色の名前も決まったところで、宿題を進めていって。



 五日後。

「姉ちゃん。この前宿題で描いた僕の絵が、学年で最優秀賞に選ばれたぞっ」

「へえ、すごいじゃない。頑張ったわね……って、この、題名って……!?」

「え? 『夜明けのミッドナイトダークネスブラック海岸』だぞ?」

「ほぅわああああああっ!?」

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