その061「いいんちょ」


「お姉さんお姉さん」

 今日も今日とて、わたくしはお姉さんのことを呼びます。

「今日はやけにお淑やかで底の知れないわんこの……え、委員長ちゃん!?」

「いやですわ、お姉さん。そんなに驚かなくても」

「な、なんで、委員長ちゃんが家に?」

「今日そちらにお伺いすると、弟さんにお伝えしましたの。ですが、彼は掃除当番でして、先に行っておいてくれと」

「は、はあ……ええと、少し待ってて。お茶出してくる」

「まあ! なんとお優しい!」

「あ、いや、まあね」

 お姉さん、苦笑のままお部屋を後にして、わたくしが一人残されます。

 少々、見回してみますと、

「ここがお姉さんのお部屋……綺麗に片づいてて、空気が澄んでて……ベッドから、お姉さんの香りが……んんっ……」

「おまたせー……って、ちょ、ストーップ!」

「はっ!?」

 いつのまにか、わたくし、フラフラとお姉さんのベッドに進行中でしたわ。

「わたくしったら、なんとはしたない……」

「な、何しようとしてたの」

「え……ここで、お聞かせしても?」

「やっぱダメよ!?」

 全力で止められましたわ。

「ふぅ……にしても委員長ちゃん、なんで私みたいな普通の子がお気に入りなの?」

「何を仰いますの。お姉さんはとても魅力的な御方です」

「え、そうかな?」

「その小さなお顔も、小さなお身体も、小さなお胸も……!」

「全部小さいんだけど!?」

「あとは……弟さんや御家族の方を見る時の優しい視線と、そのお心の美しさでしょうか」

「……美しさ」

「それに、わたくしは打ち抜かれましたの!」

「――――」

 お姉さん、少し驚いてますわ。

 ですから、ここはもっと、積極的に――!


「そっか……」


 行こうとした矢先に。

 ――お姉さんが、わたくしの手を、握り返して……え?

「委員長ちゃんの気持ち、嬉しい」

「あ、はい……お、お姉さん?」

 わたくしの腰を、引き寄せてきて――

「だから、私の感謝の気持ち」

 まっすぐに、こちらを見てきて――!

「受け取ってくれる?」

 囁きと共に、その、お顔を、近づけ――!?


「大丈夫、優しくしてあげる」

「――――っ!?」


  ☆  ★  ☆


「ただいまー……あれ? 姉ちゃん、いいんちょは?」

「今さっき、帰っちゃったわよ」

「え、もう? ……って、なんで姉ちゃん、ぐったりしてるんだ?」

「……土壇場の反撃ってやつかしら。見様見真似で通じるかは微妙だったけど、まだ向こうに照れがあって助かったわ」

「なんのことだ?」

「王子くんの、その辺には感謝ね」

「???」

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