その059「自動販売機」


「姉ちゃん姉ちゃんっ!」

 今日も今日とて、僕は姉ちゃんのことを呼ぶ。

「まるっきし、尻尾フリフリで餌を待つわんこよね。ほら、何買うの」

「オレンジッ!」

 買い物の荷物持ちに付き合ったお礼に、姉ちゃんが自販機でジュースを奢ってくれた。

「ふふ、チョイスがお子様ね」

「そういう姉ちゃんは何を選ぶんだ?」

「勿論、大人なチョイスで行くわよ」

 ドヤ顔で、姉ちゃんは自販機に百円と五十円の硬貨を入れるんだけど、

「あら?」

 百円だけが、釣り銭口から戻ってきた。

「これ、機械が硬貨を上手く認識しないからだっけ?」

「こういうの、しっかりして欲しいところよね」

 再度、姉ちゃんは硬貨を自販機に入れるんだけど。

「……また戻ってきたわ」

「ドンマイ姉ちゃん。もう一回」

 しかし、さらにもう一回も、硬貨が戻ってきた。

「あーもう! 一体何なの!?」

「まあまあ姉ちゃん」

 憤慨する姉ちゃんを宥めつつ、今度は僕が硬貨を入れると、

「あ、通った。僕はきちんと認識してくれたようだぞ」

「なんで!?」

 姉ちゃん、少し涙目。

「まあまあ、ほら、選んで選んで」

「急に飲む気が失せたんだけど……」

 そう言いつつ、紅茶のボタンを押すと、

「なんで黒酢ドリンクが!?」

「業者が間違えたのかな……お、姉ちゃん、当たりが出た。もう一個選べるぞっ」

「……だったらいいけど」

 さっきのことも踏まえて、今度はレモンティーのボタンを押すも、

「また黒酢!?」

「やけに推してるぞ……あ、また当たりが出た」

「……イヤな予感しかしないわ」

 今度は、ミルクティーのボタンを押してみると、

「新製品『カルシウムは取れるけど、乳が大きくならない牛乳』……ってナニコレっ!?」

「やけにピンポイントな名前だぞ……って、また当たりだ」

「もういいわよっ!?」

 姉ちゃん、投げやりに叫ぶも。


 ピーッ! ピーッ! ピーッ!


 自動販売機からサイレンが鳴って。


 ドサドサドサドサッ!


「おおおおっ!?」

「『カルシウムは取れるけど、乳が大きくならない牛乳』が大量に当たった!?」

「姉ちゃんがこの先大きくならないから、こんなにも当たってしまったのか……」

「やかましいわっ!?」



 で、この後、業者さんに故障の連絡をしたところ。

『ああ、仕様です』

「仕様!?」

『硬貨が戻る現象の後に、規定の商品を順番に押すと、我が社の牛乳が大量に当たるレアな裏技です』

「ものすごく要らない裏技なんだけど!?」

 ……このメーカー、いろいろ大丈夫か。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る