その058「リズムゲーム」
「ね・え・ちゃん、ね・え・ちゃん」
今日も今日とて、僕は姉ちゃんのことを呼ぶ。
「リズミカル呼吸をするわんこみたいだけど、タブレットで何やってんの?」
「最近ハマりだした音ゲーだぞ」
「音ゲーって、リズムゲーム?」
「うん、4×4マスの指でやるやつ」
たった今一曲終えて、一息吐く。
「姉ちゃんもやってみる?」
「生憎だけど、興味ないわ」
「版権曲で、デルタ☆アクセルの曲がでk「やるわっ!」
久しぶりに、反応が音速を超えた姉ちゃんだぞ。
「本当に入ってる……う、あ、ああっ!」
「姉ちゃん、キマってないで、プレイプレイ」
「っとと、そうね。正気を保たなきゃ」
で、姉ちゃんの初プレイの結果。
『FAILED RankE』
「む、難しいわ……」
最低難度なのに、クリアできなかったぞ。
「姉ちゃん、下手過ぎ」
「ぐっ……指先は器用なはずなのに、どうして?」
「リズムに乗るゲームなのに、全然リズムに乗れてなかったからなー」
「むぅ……」
「もう何万回も聴いてる曲なのに、なんでだろ」
「――!」
と、姉ちゃん、自分のスマホを手に立ち上がり、
「……見てなさい」
そう言って、自室に籠もりだした。
三日後。
「出来るようになったわよ」
僕に、そのように言ってきた。目には隈が出来ている。
「ね、姉ちゃん?」
「見るがいい」
そう言って、三日前に初めてプレイした曲の、難しい難度をプレイ。
「おお、指先が滑らかだ」
「…………」
「リズムも完璧だし」
「…………」
「何より――身体の軸がブレない上に、真顔だぞ」
正直、怖い。
「ふ、オールパーフェクト」
結果の時だけ、真顔ではなくドヤ顔だぞ。
「……姉ちゃん、相当やり込んだな」
「これも出来るわ」
と、最高難度の曲をプレイする姉ちゃん。もちろん、正確な指捌きを披露するんだけど、
「あ、ミスった」
「――――?」
「1ミスに首を傾げてるぞ!?」
この仕草、聞いたことがある。
リズムゲーム時、激しい動きの最中、ミスした時に首を傾げるプレイヤーの通称を――
「ゴリラと、呼ぶんだぞ」
「……ふむ」
「否定しない辺り、染まっちゃってるぞ!? ……つか、姉ちゃん、中間テスト前だったんじゃないの? のめり込んでて、大丈夫?」
「ふ、抜かりないわ。見てなさい」
数日後。
「おお、宣言通りオール80点以上。得意教科にいたっては99点っ! 姉ちゃん流石だぞっ」
「――――?」
「テスト結果にまで、1ミスに首を傾げてるぞ!?」
姉ちゃん、一度沼にハマったら抜け出せないタイプだぞ。
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