その054「女装」


「……姉ちゃん姉ちゃん」

 今日も今日とて、僕は姉ちゃんのことを呼ぶ。

「どうしたの、飼い主に怒られてしゅんとしたわんこの……え?」

 姉ちゃん、僕の姿を見て目が点になった。

 それもそのはず。今、僕は――女の子の格好をしている。

「どういうこと?」

「今日、レクリエーションのマウンテンクラッシャーで僕が最下位になっちゃってさ。罰ゲームで」

「内容はさておくとして、本格的じゃない? 白のセーターと紺色のワンピースって。しかもウィッグ付」

「帰る時、さすがに恥ずかしかったよ」

「ふむ……でも、可愛いわね。あなた元より見た目が子犬系だし」

 姉ちゃん、女装した僕に少し興奮気味でぺたぺた触ってくるぞ。

「化粧も程良くだし、背も最近伸びてるからスタイルも良いし、胸も……ど、どういうことよ!?」

「しっかりパッドまで用意されてたぞ」

「Dカップだわ!? 妹の方が姉より大きい法則発動か!?」

「姉ちゃん落ち着け。あと弟だから」

「……これ貸して?」

「真顔に戻らなくても、あとで貸すよ」

 それはともかく。

「あと、宿題で、姉ちゃんとのツーショット写真撮って、メールでクラスの皆に送るってことになってるんだ」

「なんでまた私が」

「姉ちゃん、僕のクラスではアイドルみたいなものだし」

「どういうこと!?」

「いろいろあって。お願いできる?」

「いろいろで片づけられるのは腑に落ちないけど……まあ、協力してあげるわ」

 そんなわけで、女装僕と姉ちゃんで写真を撮って、クラスの皆に送って。

 きっかり一分後、僕のスマホに返信の嵐が飛んできた。


『尊い』『尊い』『尊い』『尊い』『尊い』『尊い』


「リスト画面の表題全部がそれで埋められてる!?」

「恐るべき統率力だぞ……あ、いいんちょから追信が。表題:『母が代理で返信してます』? 本文は添付画像だけだぞ」

「どういうこと?」

「開いてみる」


 ――恍惚顔で幽体離脱するいいんちょの画像だった。


「いろいろマズいわ!? ……って、画面から出てきてる出てきてる!?」

「おお、また3D機能が」

「これ、多分写真の幽体でしょ!?」


『尊さに、耐え切れませんでしたわ……あふ』


「って、なんか言った上に、浄化した――っ!?」

「いいんちょ、芸が広いなー」

「芸で済まされるの!?」


 ちなみに数分後、いいんちょを本体に送り返したと友達から連絡があったので、一安心だぞっ。

「それもそれでいろいろツッコみたいんだけど!? 送り返したのって、あの幽霊のお友達よね!?」

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