その053「くしゃみ」


「姉ちゃん姉ちゃ……っぷし!」

 今日も今日とて、僕は姉ちゃんのことを呼ぼうとして、大きなくしゃみを一つする。

「この一発、飼い主の元に駆けつけようとして、勢い余って飼い主の脛に顔面から激突したわんこみたいね」

「うーむ……今日はなんだか、鼻がムズムズするぞ……っぷし!」

「花粉のシーズンは過ぎたけど、確かに、こういう日があるわね」

「姉ちゃんはムズムズこないのか?」

「私は別に…………う」

 あ、姉ちゃんにもくしゃみの波が来たみたいだぞ。

「ふ……ふ……ふ……」

 身を反らして顎を上げて発射態勢になるも、

「で……出そうで、出ないわ……!」

 姉ちゃん、ものすごく困ってるぞ。ここは一つ、

「使うかコレ! ティッシュで作ったこより! 鼻に突っ込めば一発だぞ!」

「い、いやよ!? 男の子ならまだしも、私みたいな年頃の女子がそれをやるのはいろいろビジュアル的にダメよ!?」

「ヱー、それ『じょそんだんぴ?』ってやつじゃない? あんまり意味わかんないけど」

「わかってないのね……あ、う……と、とにかくダメ……ふ……」

 また、波が来たようだぞ。

「ふ、え……ふ……」

 でも、寸前で止まってるぞ……いや、これは、

「ふ……ふ、ふ、ふ……!」

 出てくるみたいだぞ!


「ふっっ……ぶぶぶほっ!」


「…………」

「…………」

「……姉ちゃん」

「ち、ち、違うのよ!?」

「うん。可愛く『くちゅん』とか、豪快に『ぶえっくしょん』とかならコメントしようがあったけど、『ぶぶぶほ』はちょっと……」

「出る寸前で変なキャンセルが入って、あ、あり得ない暴発を起こしたのよ!」

「姉ちゃん、鼻水が出てるぞ」

「あ……う~~~~」

 ティッシュで鼻をかんで、姉ちゃん、涙目で一息。

「もう、こよりのアレよりも、いろいろダメな気がするわ……」

「ドンマイだぞ、姉ちゃん……あ」

 と、突然、僕にも波が来て、


「へ……ヘブブフンッ!」


「…………」

「…………」

「ヘブン……え? なに?」

「ち、違うんだぞ! この前の風邪の時のように、姉ちゃんに直撃させられないと思って、咄嗟に横を向いたらこうなって……!」

「うん、姉弟でお揃いってやつね、ふ、ふふ、ふふふ」

「ダメ仲間を見つけたような眼で半笑いになるのヤメテ!?」

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