その038「彫刻」

「姉ちゃん姉ちゃんっ!」

 今日も今日とて、僕は姉ちゃんのことを呼ぶ。

「これまた、秘密に埋めてた骨を飼い主に見せたがるわんこの如しね。どうかしたの?」

「彫刻の授業があって、僕と友達の皆の作品をスマホに収めてきたぞっ」

「あー、そう言うのもあったわね、懐かしい」

 ちょっと感慨深げに、姉ちゃんは僕のスマホを見る。

「犬のマスコット!」

「……あなた、本当に器用ね。デフォルメ具合が見事だわ」

「乗り物!」

「これ、完全にアレよね!? この前に私達も乗った未確認なアレよね!?」

「木彫りクマ!」

「くわえている鮭までリアル過ぎる!? あのヒグマの子、こんなことまで出来るの!?」

「ハーレム!」

「……あの男装っ娘、なんてものを目指してるの」

「〆は、いいんちょ作の1/10スケール姉ちゃんっ!」

「わ、私の立体人形!? これ、もはや彫刻ってレベルじゃないでしょ!?」

『――お姉さんお姉さんお姉さんお姉さんお姉さんお姉さん』

「って、なんだか写真の人形から、妙な念みたいなものが出てきてる!? ナニコレ!?」

「うーん、みんなすごいなぁ。僕ももっと頑張らないと」

「それ以上進化するっていうの……あ、もうちょっと見せてくれる?」

 呆れつつも、僕のスマホをスライドさせては、姉ちゃん感心してるぞ。

「にしても……ここまで豊かな発想っていうのも、良いものよね」

「そういうものか?」

「私みたいな年齢になると、いろいろ余計なこと考えちゃうし。その点、この自由さは羨ましくなるわ」

「ふーん……あ、お父さん、帰ってきた」

 玄関の方から音がして、仕事から帰ってきたお父さんが『ただいまー』とリビングに入ってきたタイミングで、


「まったく、小学生って最高よね」


 ――姉ちゃんの発言に、お父さんは凍り付いた。

「あら、お父さん、おかえりなさい……え? 正座? なんで? さっきの言葉……あっ……! ち、ち、違うのよ!? い、今のは、発想の自由さって意味で、別にそう言う不穏当な意味ではなくて!」

「姉ちゃん、そろそろ僕の小学校の友達が映ったスマホ返してくれる?」

「そのタイミングで誤解を生む横槍を入れないでっ!? え、お父さん? 最低でも中学生にしとけ? だから違うんだってばっ! 何言ってんのお父さん!?」


 とまあ、姉ちゃんの言い訳もむなしく。

 お父さんの説教は、この後一時間以上に及んだぞ。

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