その036「絵」

「姉ちゃん姉ちゃんっ!」

 今日も今日とて、僕は姉ちゃんのことを呼ぶ。

「どうしたの? 新たな散歩コースが増えてワクワクするわんこみたいになってるけど」

「学校で、姉ちゃんの似顔絵を描いたぞっ」

「な……なんで、私を?」

「今日の課題が、好きな動物の絵を描けってことだったから」

「私は動物かっ!?」

「人間も立派な動物だぞっ。先生も許可してくれたし」

「ぬ……まあ、言われてみれば、そういう概念もありね」

 そう言って、姉ちゃんは僕の絵を見て、

「え……こ、これが、私? 上手く描けてるけど、ちょっと美化しすぎじゃない?」

「ううん、僕にとっては、そのくらい姉ちゃんは可愛いってことだぞっ」

「っ! ……ま、またこの子は、そういう恥ずかしい台詞を。でも……上手に描いてくれて、ありがとね」

 お、姉ちゃん、すんごい嬉しそうだぞ。

「ちなみに、顔だけだと物足りないから、二枚目の画用紙に上半身を描いたぞっ」

「………………ねえ、愛用のセーターを着てる絵なのはいいけど、なんで、こう、体の部分がメリハリのない縦一直線なの?」

「え? そのまんまだぞ?」

「そのまんまとか言うなっ!?」

「追加で、三枚目には下半身も描いてあるぞっ」

「え……あ、ちょっと! 脚が少し短めに描かれてるんだけどっ!?」

「え? 縮尺的に合ってると思ったんだけど……」

「あ、あ、あ、合ってるとか言うなぁっ!? 人が密かに気にしていることを、この子は……!」

「うーん、でもやっぱりこれ、一枚にまとめた方がいいのかな」

「もうヤメテ!? これ以上はいろいろ悲しくなるから、縮尺をわかりやすくするのヤメテっ!?」

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