その033「アイドル」

「姉ちゃん姉ちゃ――」

「――――!」

 今日も今日とて、僕は姉ちゃんのことを呼ぼうとして。

 テレビに釘付けになってる姉ちゃんに、ノールックかつ無言で手で制された。……一体何が?

「……あ、もしかして、デルタ☆アクセルか?」

 姉ちゃんの好きな、男性アイドルユニットのことだ。

 現在男女を問わず人気最高潮で、歌番組やバラエティに引っ張りだこだぞっ。

「来るわ……来るわ……キタ――――っ!」

 で、番組での出番が来た途端、姉ちゃん、すんごい大喜び。

「ヒノ――――ンッ!」

 イケメン枠の大城おおしろ火音ひのんさんに、姉ちゃん絶叫。

「タカマ……あっ……あッ! ア――ッ!?」

 ワイルド枠の中条ちゅうじょう貴馬たかまさんに、姉ちゃん悶絶。

「リキだわっ! ダメよっ! 宇宙で一番可愛いわっ!?」

 ショタ枠の小橋こばし理基りきさんに、姉ちゃんキュン死。

「予告されてた緊急発表は……やっぱり新曲ねっ! 新曲なのねっ!? え……えええええええっ!? 新曲の上に、全国ライブツアー!? しかも近くに来るじゃないっ! 行くっ! 絶対に行くっ! 行かせていただきますっ!」

 姉ちゃん、テレビに向かって土下座。

「え、うそ、予定の新曲をワンコーラスだけ!? 番組のこの場で? そんなことしてどうすんのっ!? 日本でも良くするのっ!?」

 姉ちゃん、意味が分からない。

「………………ああ、ああああ」

 姉ちゃん、感涙で真っ白。

 とまあ、一通りの発表を終えたわけだけど。

「……ふぅ」

 五分くらいして、姉ちゃんようやく一息を吐いて、

「で、あり得ない物を見てどん引きのわんこみたいになってるけど、どうかしたの?」

「あ……いや、今回はその、いいです」


 ついつい丁寧語になってしまうくらい、圧倒されてしまったぞ……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る