その030「蛍光灯」
「姉ちゃん姉ちゃんっ!」
今日も今日とて、僕は姉ちゃんのことを呼ぶ。
「一体何事? 危険な場所から緊急脱出してきたわんこみたいに呼んでくるけど」
「部屋の蛍光灯が切れたから、取り替え手伝ってくれっ!」
「……私、いろいろ身体的に短いんだけど」
「知ってるっ!」
「ケンカ売ってるのかしら?」
普通に肯定しただけなのに、姉ちゃんなんで怒ってるんだっ!?
「あ、いや、僕が取り替えるから、土台の椅子、支えといて欲しいんだよ」
「……まあ、今日はお父さん帰ってくるの遅いし、お母さんも私と同じくらいの背丈だしで、しょうがないわね」
了解を得て、倉庫から買い置きの蛍光灯を取ってきて、僕の部屋へ。
「姉ちゃん。椅子、しっかり支えといてくれ」
「こういうとき、コロコロ椅子って不便ね」
「よーし、いくぞっ」
手足を伸ばして……よし、届いたっ!
消えた蛍光灯のコードと、本体も外して……っと、これがちょっと力要るんだぞ。
「姉ちゃん、予備をくれっ」
「はいはい」
手渡された蛍光灯を固定してから、コードを繋いだ瞬間、
「……って、おおっ!?」
電灯のスイッチ、ONにしたままなのを忘れてたっ!?
いきなり点いた蛍光灯にびっくりして、僕はバランスを崩して、
「あ、危ないっ……きゃっ!?」
ドスン、と下にいた姉ちゃんにぶつかってしまった。
「いたたたた……姉ちゃんごめん、頭打ってないか?」
「……………………」
「? 姉ちゃ……あ……」
いつの間にか、仰向けになった姉ちゃんに、僕が覆い被さった状態になってるぞっ!? さすがにまずいぞっ!?
「ご、ごめん、姉ちゃん、すぐ退くからっ!」
「う……」
「? う?」
「う……う、ううううう……」
「ええええっ!? 姉ちゃん、なんで顔を赤くしながら泣くの堪えてんの!?」
「――なんだかすごい音がしたけど、どうかした?」
「あ、お母さん……」
騒ぎを聞きつけたのか、お母さんが僕の部屋に来たんだけど。
今の僕と姉ちゃんの状態を見て、
「………………程々に、ね?」
「お母さん、何言ってんの!? あ、いや、笑顔で去っていかないで!?」
「う……うううぅぅ……」
「姉ちゃんも、いつまでも泣くの耐えてないで!?」
「……………………」
「おおぅいっ!? 姉ちゃん、諦めたように眼を閉じないで!? 何もしないから!? あーもう、なんだこれっ! 僕何も悪いことしてないよっ!?」
その後も、姉ちゃんってば今日一日、口利いてくれなかったぞ……。
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