その029「読書中」

「姉ちゃん姉ちゃんっ!」

 今日も今日とて、僕は姉ちゃんのことを呼ぶのだが。

「居ないわよ」

「居るじゃん!?」

 姉ちゃん、読書に集中していて、相手をしてくれない。

 そういえば、姉ちゃんが大ファンな人のエッセイ、今日発売だった。

「おおぅ……すんごいのめり込んでるぞ」

「…………」

「ねーちゃーんってばー」

「…………」

 へんじがない。ただの本の虫のようだ。無視だけに。

「姉ちゃん、返事して、お願い……」

「…………」

「ほら、姉ちゃん、手品だぞ! 今回は鳩に見せかけて蝶かと思いきやモス●だぞっ!」

「…………」

「そういえば、本を拾ったぞっ! 今回は魔道書みたいに難しい文字いっぱいだぞっ!」

「…………」

 見てない!? 今日の姉ちゃん、なかなか手強いぞっ!?

「うーむ……よしっ!」

 くすぐってみるz


 ずびしっ


「いったぁっ!? ノールックデコピンカウンターとは、姉ちゃんやるなっ!」

 本当に手強いぞっ!?

「どうやら直接ではなく間接で振り向かせないといけないようだぞ……」

「…………」

「……こうなったら、奥の手、いってみるか」

「…………」

 正面に回って、よく見て、よく見て……姉ちゃんがページをめくるタイミングで……今っ!

「これを見ろ姉ちゃんっ!」

「……?」


「手品奥義・ピサの斜塔っ!」


「ぶ――――っ!?」

 姉ちゃん、思いっきり吹き出したぞ。大成功っ!

「な、な、な……は、鼻が、伸びた!? どうなってんのよそれ!? しかも、塔を支えるミニチュアまでっ!?」

「人形は手作りだぞっ!」

「あ、いや、そっちは聞いてないわよっ! だから、どうやって鼻を――」

「鼻の他にも、こっちのほうでも練習中だぞっ!」

「――――――っ!?」

「つーことで、特別に姉ちゃんに見せてみるぞっ! 手品奥義・バベルの――」

「や、や、や、やめなさいっ!? よい娘が見たら目が潰れる光景になるからやめなさいっ!」

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