その026「かけっこ」


「姉ちゃん姉ちゃんっ!」

 お母さんから頼まれた買い物に向かう途中、今日も今日とて、僕は姉ちゃんのことを呼ぶ。

「なんだか、子犬のワルツで庭をリズミカルに駆け回るわんこのようね」

「かけっこしようぜ!」

「いきなり唐突ね。私、足遅いわよ? 運動も苦手だし」

「知ってるっ!」

「知ってるんかい! ……まあ、小学生には勝てると思うから、相手して上げるわ」

 というわけで。

 向こうの交差点(約五十メートルくらい)まで姉ちゃんとかけっこすることになった。

「よーい、ドン!」

 結果。

 大差で、僕が勝った!

「はあ、はあ……な、なんてこと……小学生相手に……」

 息を切らしながら、姉ちゃん、すんごいショック受けてるっぽい。

「姉ちゃん、空気抵抗が少ないのに、なんでこんなに……はっ、背が低いから歩幅が」

「い、言いたい放題ね……かくいうあなたも、私より少し高いくらいだから、歩幅もほとんど変わらないはずよ……」

「僕はほら、昔、お父さんに教えてもらった走法をマスターして、脚力も鍛えられたから」

「……どんな走法よ」

「えーと、まずは、足をシャカシャカ動かして……こうやって、バビューン!」

「え、ちょ、ギャグマンガ走法!?」

「キ――――――――――ンッ!」

「それ、かけ声で使ってはいけないやつよっ!? あ、お、お、置いてかないで――っ!?」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る