その024「カップル」


「姉ちゃん姉ちゃん」

 二人で電車でのお出かけ中。

 今日も今日とて、僕は姉ちゃんのことを呼ぶ。

「物陰に身を潜めて機を待つわんこみたいなのは良いけど、電車の中では静かにね」

「向かいの席にいるお姉さんとお兄さん、すんごいラブラブだぞ」

「……そうね。私自身も、やりすぎではないだろうかという思いがあるわ……肩を抱き合ったりスリスリとか、時たま頬と頬を合わせたりとか、内容はわからないがボソボソと愛の囁き合いとか……あーもう、爆発しろっ! もしくはもげろっ! 顔面から七孔噴血してしまえっ!」

「姉ちゃん、ブツブツと聞こえない程度に敵意丸出しだな」

「うるさいわよっ……くううっ……!」

「ふむ……よし、姉ちゃん、僕とイチャイチャしよう」

「えっ!? ……あ、いや、まあ、変な同情はしなくていいのよ?」

「同情って? 僕、久しぶりに姉ちゃんに甘えたくなっただけだよ?」

「甘えたいって……あ、こら、やめなさい。そんな、ひっついてくるなんて……まあ、ちょっとは、悪くない気分ではあるけど……」

「ほらほら、姉ちゃんも」

「むう……まあ、恋人同士じゃなくて、単なる姉弟のジャレ付きって考えれば、いいか……」


 ――ねえねえ、あの子達見て。

 ――ふふ、あっちもあっちでラブラブだな。


 と、向かいのカップルの方から、そんなヒソヒソ声が聞こえてきた。

「聞いたか姉ちゃん? 僕達、すんごい仲良しに見えてるみたいだぞっ」

「え? ホントに、成立してんの? うそ……」


 ――かわいー。小学生同士でしょ?

 ――幼い恋というのも、いいものだ。末永い幸せを願う。


「どうした姉ちゃん?」

「いや…………ものっすごい不本意な形の成立で……ねっ! ……くっ」

「???」

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