その022「ケーキ2」


「姉ちゃん姉ちゃんっ!」

 今日も今日とて、僕は姉ちゃんのことを呼ぶ。

「なーに? 初めて見る物に首を傾げるわんこみたいになってるわよ」

「お父さんがケーキを買ってきt「今度は、モンブランは私の物よっ!」

 姉ちゃんの反応が、またも音速を超えたぞっ!?

「姉ちゃん、そこまで必死にならなくても……」

「うるさいわよ! ……よし、確保したわ。ククク、いつ見ても良いわね、この黄金の輝き具合……」

「なんだかとっても危ない雰囲気だけど……まあ、いいや。じゃあ、僕はこの……黒塗りのやつ!」

「黒塗り? ……え、なに、この、名前の通りに外見が真っ黒なケーキ」

「ん、姉ちゃん、どうしたの? もしかして、このケーキ気になる?」

「あ、いや……」

 ものすごく気にしてるぞ、姉ちゃん。

「じゃあ、そのモンブランと交換する?」

「うぐっ……そ、それだけは……!」

「二個も独占するのはさすがにダメだよ、姉ちゃん」

「くっ……ここぞとばかりに正論を……! うーん」

 これ以上にないほど迷ってるぞ、姉ちゃん。

「むぅ……ううむ……っ……こ、交換、してもらえるかしら?」

「おお、よく交換する気になったな、姉ちゃん」

「そうね……言わば、興味が理性に辛勝したのよ……」

「よくわかんないぞ……」

 というわけで、残りは冷蔵庫に入れておいて。

 お父さんはお風呂中、お母さんは台所でお片づけ中なので、まずは二人でお先にいただきます。

 その味はと言うと――

「ぐっ! ぎ……い、あっ! に、に、苦っ!? にっがっ!? あああああっ!?」

 姉ちゃん、思わず悶絶。

「……そんなに苦いの?」

「~~~~~~~」

「あ、商品名書いてある。お試し新商品、カカオ95%ブラックビターケーキだって」

「~~~~~~~」

「お、おう……牛乳に伸ばす手すら震えてるぞ……」

「う……ふ、ふえええええ……」

「え、ちょ、姉ちゃん、マジ泣きっ!?」

「うぐ、ひっく、ぐすっ……」

「ええと……ね、姉ちゃん? モンブラン、一口、食べる?」

「あう、ううううぅ……」

 このあと、姉ちゃんは五分ほど泣きやまなかった。

 そんなにすごかったのか……ごくり……。


 後から聞いた話。

 ブラックビターケーキはお父さんがネタで食べるつもりで買ったんだけど、省くのを忘れていたんだって。

 

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