その016「作文」


「姉ちゃん姉ちゃんっ!」

 今日も今日とて、僕は姉ちゃんのことを呼ぶ。

「なに……っていうか、なんだかその顔、自慢することが出来てドヤ顔をするわんこみたいね。微妙にムカつくわ」

「今度、学校で発表する作文を書いたから聞いてくれ!」

「…………あー」

「どうした姉ちゃん?」

「うん、まあ。クラス内で読み上げるアレよね? 私、めちゃくちゃ恥ずかしくて小声でしか読めなかったのよね……」

「へえ。どんなお題だったんだ?」

「将来の夢よ。で、そのときの私の夢は素敵なお嫁……って、何言わせるのよ!?」

「ええええっ!? なんで僕、一人ノリツッコミで怒られてんの!?」

 姉ちゃん、時々わかんないぞ。

「……っとと、確かに理不尽だったわ。ごめんね。作文聞いてあげるから」

「お、おう……えー、こほん。お題『僕の好きな人』」

「ん?」

「『僕は姉ちゃんのことが大好きです』!」

「ぶっ!?」

「『お父さんや、お母さんのことも大好きです』!」

「……え、あ……ああ、そ、そういう意味ね。ビックリした……」

「『おじいちゃんや、おばあちゃんのことも大好きです。親戚のおじさんやおばさんのことも大好きです』!」

「…………」

「『引っ越す前の友達のことも、今の友達のことも大好きです。先生のことも大好きです』!」

「……ここまで、いろんな人達のことを『大好き』ってはっきり言えるのって、一種の才能ね」

「『近所のおじさんも大好きです。商店街のおばさんも大好きです』!」

「でも――それってきっと、誰からも愛される才能でもあると思うわ」

「『お兄さんに飼われている犬も大好きです。路地裏でよく眠っている猫のことも大好きです』!」

「もちろん、私も……」



「『そんな大好きな人達が――将来、僕を老後まで徹底的に養うと言ってくれていますっ!』」



「私は言ってないわよ!? 台無しすぎるでしょ!?」

「はえ? 何が行けないんだ?」

「そのようなことをイノセントな眼で言ってるあたりが、恐ろしい才能ねっ!?」

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