その011「鍵」


「姉ちゃん姉ちゃんっ!」

 今日も今日とて、僕は姉ちゃんのことを呼ぶ。

「……なんだか、文字通りご主人様の帰りを待っていたわんこみたいね。なんで家に入ってないのよ」

「鍵を家に忘れた!」

 今日、お父さんとお母さんが夜まで居ない予定なので、姉ちゃんと僕とで一つずつ家の鍵を持ってたはずなんだけど。

 僕、鍵を忘れちゃってたみたいだ。

「……なんで、そんなにテンションが高いのよ」

「うーん、やっと家に入れるっていう安心感かな!」

「……それは、わからないでもないわね」

「あと、一人はやっぱり寂しかったから、姉ちゃんの顔を見たらすんごいホッとした!」

「っ……な、なによ、照れるじゃない。なんだかんだで可愛いところがあるわね、あなた」

「何よりも一番に、早くトイレ行きたいっ!」

「私はトイレ以下かっ!? 台なしすぎるでしょ!?」

「でも、姉ちゃん、わかるだろ?」

「……まあ、わかるわよ。私も経験あるし」

「だーかーら、はーやーく、はーやーく」

「コールしなくても、ちゃんと開けるから、もうちょっと待ちなさい」

「トーイーレ、トーイーレ」

「変なコールをするのはやめなさいっ!?」

「ばーくはつ、すーんぜん」

「いや、だから待ちなさいってっ!」

「……姉ちゃんが」

「なんでそこで低音で付け加えるの!? 私、トイレは……なんか、行きたくなってきたわ」

「そーそーう、そーそーう……姉ちゃんが」

「だから最後に低音で私を付け加えないで!? しかも粗相って、小学生のくせに難しい言葉使うわね!?」

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