Electrical Bitch 4

「最後になって追加料金に文句を言う人は結構いるの?」

「多くはないけど、いるにはいる。しかも素人。慣れてる人は支払いが早くてスマートだけど、素人さんは仕組みを理解していないことが多いからね。口でやると追加料金になりますって利用規約に書いてあるのに、最後の最後に『別に特別なことは何もしていないじゃないか』って文句言う人は結構いるよ」

「ふうん。他に何か追加サービスはあるの?」

「うーんと、持ち込みの設定を反映するやつは利用頻度が高いね。特に獣耳の追加指定は結構多いよ。顔を変えて欲しいというお願いは定番だしね。ただ、全身のサイズを細かく指定されたのには驚いたな。そういうのって、普通は現実の彼女がどこかにいるわけじゃない? どうやってここまでサイズを調べたんだろうって思う」

「あれ、そういえば声は変えられないんだよね」

「私のほうでは出来ないんだけど、お客さんのほうで音声出力時に変換かけてるって言われたことがあるよ」

「ああ、そうなんだ。そこまで思い入れがあるものなんだね」

「まあ、だったら現実世界のほうをどうにかしたほうが良いと思うんだけどね、さすがにそれは言えないよね」

「そうだね」


 現実世界で会社を退職した彼女は、本格的に仮想世界で自営業を始めた。

 フリーランスで活動をしているEBもいるらしいが、それは有力な固定客を抱えたごく一握りのトップレベルだけであり、不特定多数を相手にしなければならないEBは、トラブルを嫌がって大手の斡旋所サイトに登録していることが多い。

 そして、そのランニング費用は決して安くなかった。

「でも、登録料をケチると碌なことがないんだよね。新規サービスに飛びつくと、裏に怖いお兄さん方が控えていることがあって、基本料金は殆ど掠め取られて、追加サービスを貰うためにいろいろ無理をしなければならないこともあるって聞いてる。それに、マイナーな斡旋所だとそもそも客が来ないから、指名がなかなかかからないこともあるんだって。だから、私はずっと同じところをつかってる。ID見ると最古参に近いよ」

「サイバー・ポリスの摘発とか大丈夫なの?」

「あんなの、国内しか捜査権ないじゃん。昔からのサイトは海外サーバだし、表向きはお仲間紹介を謳っているサイトだから、現場を押さえられなければ問題ないよ。それに一般サイトの宿泊施設って、基本的に個人情報保護法の対象だからね」

「さすがにその辺の事情には詳しいんだね」

「長いからね。年の功」


 ところで、大手サイトは競争が激しい。

 人気ランキングの上位をキープしていないと、埋もれてしまってなかなか客がつかないのが現実だ。わざわざ掘り起こしをする好き者もいるにはいるが、それはごく少数のマニアックな連中であって、一般客は他人の評価を気にする。

「私は百位以内をキープし続けているから、そこそこ生活に困らないくらいの稼ぎになっているけど、ランク外は全然らしいよ。底辺娼婦とか言って自虐的になる子は多いし、一発逆転を狙って新規サービスに飛び込んで失敗する子も多いね」

「リコメンド機能があるんじゃないの?」

「あれは裏で別料金払っているんだって。ランキングで組織票をまとめてもらうのに投資して、リコメンドの出現頻度を操作してもらうのに投資して、もちろんアバターも課金でチューンしなきゃだから、一度ランク外に落ちると復活するのにすごいお金がかかるんだ」

「君はどのくらいかけているの?」

「私? そうだなあ、組織票で十五、リコメンドで十五、アバター課金で十ってところかな。あと、斡旋所の登録費用が十だから、全部で五十はかかっているね」

「それって、単位は月当たりの万円だよね」

「うん。でも、普通このぐらいだよ」

 私は、そう言って微笑む彼女を見つめてしまった。

「あ、今『どうして現実のほうにお金がかかっていないんだろう』って考えたでしょう?」

「あ、いや、そんなことは――」

「いいの、いいの、普通の人はそう思うから慣れてる」

 そこで真凜はモカ・フラペチーノを一掬いすると、それを口の中に放り込む。

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