Electrical Bitch 3
それでも最初のうちは、システム運営会社の側に自社規制のような変な遠慮があったらしい。
短大の頃にはリアルな経験を済ませていた真凛は、フルダイブでの初体験をこう説明した。
「なんだか、お股の間に中途半端に硬い棒を差し込まれたような感じだったよ」
「気持ちは良かったの」
「うーん、微妙だったなあ。何て言ったらいいのか、ぬるぬるしていて痛くはないんだけどね、気持ちが良いわけでもないんだよね」
「ふうん、言葉だけ聞いていると、ところてんを作っている現場みたいな話だね」
「ところてん、って何? 見たことないんだけど」
さほどリアルではない性交渉は、仮想現実世界で親密になった相手との『儀式』に過ぎなかった。
ところが、複数の仮想現実世界で基本設定を共通利用できるようにする動き――フリー・トランザクションが本格稼動を始めると、状況が変わってくる。
初期のフルダイブ型仮想現実世界は、運営会社により世界観が異なっており、経済についての考え方――もっと平たく言うと基本通貨単位がまちまちだった。
また、アバターもソフトウェアに依存しており、世界単位で生成して切り替える必要があった。ある世界でアバターを作りこんだとしても、他の世界にそれを持ち込むことはできなかったのだ。
しかし、単一の世界観に拘るユーザーというのは少数派である。多くのユーザーは目的毎に世界を切り替るのが普通だ。
例えば、冒険をしたい時にはファンタジー的世界観を利用するが、料理を習うために異世界に旅立つ者はいない。リソースを運動性能や瞬発力ではなく、味覚や嗅覚に振り分けた、それ専用の仮想現実世界のほうが臨場感が増すからだ。
そこで、仮想現実世界を横断するための共通アバターと共通通貨単位が提唱されて、利便性の高さから急速に普及してゆく。
もちろん、この手の規格共通化では有力候補者が乱立するのが常であるから、仮想現実世界の共通仕様も現時点で三つのユニバーサル・フォーマットが覇権争いを繰り返している。ただ、フォーマット間の変換サービスが生まれたことにより、実質的には「ワンユーザー・ワンアバター」が可能となった。
さらに、共通化された通貨単位は、リアル・マネーとの互換性まで獲得する。例えば、現時点で最大の利用者数を誇る通貨単位『ゴールド』は、米ドルとの等価交換が可能である。初期段階においては、為替相場の形成も視野においていたと聞くが、さすがに信用・保証の問題がクリアできず、実現には至っていない。
しかしながら、少なくとも仮想現実世界で稼いだ通貨を現実世界で利用可能になったわけである。
となれば、世界最古の職業が自然発生してもなんら不思議ではない。
そして、真凜は極めてカジュアルな貞操観念の持ち主であり、仮想現実世界であれば妊娠や面倒な病気を貰うリスクを心配する必要がなかったため、割とすんなりその職業を選択することにした。
いわゆる「Electrical Bitch」――略称を「EB」という電脳娼婦が、今の彼女の
仕組みはごく簡単だ。
仮想現実世界に斡旋所サイトがある。そこで好きな相手を選んで、日時と場所を指定して、
一戦交える前に、登録されている前払金を双方で確認して、承認ボタンを押す。これで正式契約となるから、後は好きなだけサービスを受ければよい。
事が終わったところで、前払金に追加サービス分の料金が上乗せとなるから、それを加えてお互いに電子承認する。
それですべて完了だ。
もし、事後に客側が支払いを渋ったとしても、EBが事前承認した前払金は当のEBしかキャンセルすることが出来ない。未清算の支払いがあると新規のサービスは利用できないようになっている。
ただ、EB側も未清算の支払いが残ったままでは斡旋所で新規登録画面が開かないから、お互い様で支払いに関するトラブルはその場で当事者が解決する決まりになっていた。
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