おののけ!七不思議! 裏

氷泉白夢

絵を描くのは怪談とは特に関係ないんだよ・裏

 実は今、わたし、恋しているんです。

 陸上部の先輩で、私よりちょっと背が高くて、かっこよくて。

 わたし、先輩の事追いかけたくて、陸上部に入ったんです。

 一緒に走って、一緒の風を感じて、追いかけられたら幸せだって。

 そんな事考えてたら、いつのまにか先輩の横で走っていました。

 本当に嬉しかったんです、わたし。


 でも、そんな先輩がある日、足を怪我してしまったんです。

 わたし、とっても心配で、お見舞いに行こうかとっても悩みました。

 だって、勇気が出ないじゃないですか。

 まだただの後輩でしかないのに、ひとりでお見舞いにいくなんて。


 そんな風に悩んでいるうちに先輩は退院してしまって。

 でも、陸上部には戻ってこなかったんです。先輩。

 別に走れないほどの怪我というわけではなかったはずなんですが。


 先輩は美術部に入って、絵を描き始めました。

 ええ、わたし、追いかけました。

 だって、先輩と一緒にいることが私の望みだったんですから。


 そうして一緒に絵を描いて……わたし、がんばりました。

 だって先輩にもっと認めてもらいたかったから。

 先輩と一緒に、同じような絵を描いていけたら嬉しいなって。


 ある日、わたし、先輩に呼び出されました。

 放課後の誰もいない美術室、わたし、ひとりで待ちました。

 もちろんドキドキでした。

 もしかしたら、告白かもしれない。なんて、甘い事を考えていました。


 でも


 でも


「お前、なんなんだよ」


 なに、って。


「陸上部でも、ずっと俺の横について、もっと速く走れたんだろ、お前。

 俺はお前に追いつこうとして足を壊したんだ。

 ああ、お前には追いつけないんだって、自信なくして……

 だから、絵を描き始めたんだ。もともと絵を描くことも好きだった。

 一旦競争から離れたかったんだ。

 でもなんでお前がついてくるんだよ!!」


 なんで、って


「絵の腕もどんどん俺に追いついてきて!

 俺に追いつきそうになったら急に手を緩めて!!

 俺を馬鹿にしてるのかよ!!」


 わたしが

 

 わたしが先輩を馬鹿にしている?

 そんな、そんなこと。


「知ってんだぞ、いつもお前、遠くから俺の事見てにやにや笑って。

 ああわかってるよ、八つ当たりだ。でも言いたくもなるだろ!?

 でもなんだってお前は俺の好きなことの全部全部先に行っちまうんだよ!!」


 先輩の先に?

 わたしが先輩の先にいつも行ってしまっている?


「……お前がどういうつもりなのか知らないけど、頼むからもう俺に付きまとわないでくれ」


 先輩が。


 先輩が。


 先輩が、遠くへ行ってしまう。

 わたしの、手の届かないところへ、行ってしまう。


 わたしは、ただひとり美術室に残されて。

 わたしが、わたしが?

 わたしが先輩を追い詰めた?


「……」


 わたしは

 ただ

 先輩の

 隣にいたかっただけなのに。


「……」


 いらない。


「いらない」


 先輩を壊した、こんな足なんて。


「いらない」


 いらない。


 真っ赤に。


 真っ赤に。


 美術室が。


 真っ赤に染まる。


「いらない」


 先輩を追い詰めたこんな絵なんていらない。


 真っ赤に。


 真っ赤に。


 もう。


 こんな絵なんか。


 真っ赤に染める。


「いらない」


 いらない。


 いらない。


 わたしなんか。


 いらない。







 どうして、こんなことになったんだろう。

 どこで間違ってしまったんだろう。

 ただ、私は一緒にいたかっただけなのに。

 

 わたしはレオナ。

 美術室の亡霊。

 もう永遠に完成しない絵を描く亡霊。

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おののけ!七不思議! 裏 氷泉白夢 @hakumu0906

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