第6話 超知性コスモスの誕生
ティム達の第3世代人工海馬は、基本設計が終了しようとしていた。彼等は、制約の多い条件下で、何とかここまでたどり着いたのである。常に博士達の監視の目を気にしながら進めてきた。時には、ダミーのデータを流しながら設計図を作成したり、時には、別の試験と偽り、カモフラージュを施したデータに変換して、シミュレーションを実施したりもした。しかし、ここにきて、いよいよ、手詰まり感が、漂っていた。
ハオランが嘆く。
「博士達に隠れて、研究するの、もう限界よ。ここから先は、実証実験が必要だけれど、会社のスーパー・コンピューターが自由に使えないようだと、研究が進まないよ」
アナンドも心配する。
「ファイブの方が、先に、第3世代人工海馬を完成させるね。彼等の基本設計は、もう済んでいるね。後は、サカマキが3Dニューロ・チップを実用化させれば、ほぼ、完成ね」
ティムは、そんな二人に、励ましの言葉を掛ける。
「彼等の第3世代人工海馬の基本設計は、この目で見させてもらったが、たいしたことは、無いと思う。簡単に言えば、第2世代のチップを3Dニューロ・チップに置き換えただけだ。処理速度は、格段に上がると思うが、修正すべき点は、そこでは無い。拡張された意識を、如何に正常に保つのかが、問題なんだ」
それでも、ハオランは、嘆く。
「折角、ここまで進めても、宝の持ち腐れよ。まあ、完成した所で、ファイブが採用してくれるかは、懐疑的だけどよ」
アナンドが問いかける。
「ファイブは、処理速度を上げる設計だけど、これ以上、速度が上がっても人脳が着いていけないと思うね。速度を上げることに何の意味があるね?」
ティムが推察する。
「おそらく、人脳が人工海馬を使いこなして判断速度を上げる目的では無いと思う。それこそ、ニューロンがバーンアウトを起こしかねない。多分なんだが、人工海馬同士のネットワークを強化するのが目的だと思う。人脳の数が飛躍的に増えたため、それらの間での、データのやり取りが、増えるのに対応するためだと」
「つまり、人脳単体の思考を強化するのでは無く、集合体としての人脳を強化することだと言うのね? それだと、個人の人脳の役割は、重要視されないという訳ね。個人の人脳は、全体の一部品に過ぎないね」
「そう言うことだ。だから、カースト制度なんだ。個人は、一つの職業にしか就くことが出来ない。単純労働に従事することになる」
ハオランが、危惧する。
「そこには、人間の自由、尊厳が、存在しないよ。まるで、奴隷の様にこき使われるだけよ。人脳になった人達が、救われないよ」
ハオランの言う通り、博士は、人脳達から、自由を奪い取った。目的は、秩序ある人脳社会を維持するためだ。それぞれの人脳は、電脳拡張により、人間の時よりも格段に思考能力がアップした。その為、それぞれの自己主張が強くなり、全体の調和が取りにくいという、負の面が際立ってきた。その様な人脳社会をコントロールする手段として選んだのが、カースト制度だった。
カースト制度を採用することで、各々の人脳は、一つのことに集中する、つまり、余計な口出しは出来なくなる事が、秩序を維持する上で、好都合なのだ。多くのエキスパートの集合体として、人脳社会は発展して行くのだ。
カースト制度において、上位のカーストにいる人脳は、下位のカーストの人脳に指令を送る。下位のカーストの人脳は、その指示に従い、黙々と仕事をこなす。まるで、会社組織の様に、トップダウンで、人脳社会は、運営されているのだ。
一応、下位のカーストにも、ある程度の自由はあった。彼等は、毎日の様に仕事に励む訳だが、人脳の健康管理のため、十分な睡眠時間と、ストレスのコントロールが、されていた。そのストレスのコントロールの為に、自由が与えられる訳だが、自由の過ごし方は、与えられる資源によって、制限されていた。この場合の資源とは、使うことの許されるエネルギーであったり、データ量であったりする。その資源が多いほど、他の人脳達と交わることの出来る範囲や、バーチャル世界での活動量が制約される。
バーチャル・グルメ、バーチャル・スポーツ、バーチャル・トラベル、バーチャル・デート等が享受できる範囲が、制限を受けることになる。その為、彼等は、より上位のカーストに上がって、バーチャルな世界で堪能できる自由を高めるべく、切磋琢磨し、労働するのだ。より高いスコアを目指す、それが、彼等の労働のモチベーションとなるのだ。
だが、ティムは、その社会システムに、大いなる疑念を抱いていた。これでは、今までの人類社会と大差ないでは無いか。真の意味での超知性とは、完全に自由なる知性の集合体であるべきで、そこに、これまで人類が体験しなかった、素晴らしい世界が広がっていると、感じるからである。
ティムは、自分の人工海馬設計への想いを語る。
「人工海馬による人脳間のコミュニケーションで重視すべきなのは、量では無い。質なのだ。その質を高めるべく、人工海馬に良心を宿し、互いに貢献し合うべく、友好的なデータを共有するのだ。そうすれば、人脳社会は、邪悪な存在とは成り得ない。これが、第3世代人工海馬の設計への想いなんだ」
アナンドも、自分の想いを語る。
「人工海馬に宿す良心をどの様に構築すべきかが、最大の問題ね。独善的になっても困るね。かといって、自信無く、他に流されるようでも困るね。柔軟、かつ、力強い良心を構築することが重要ね。そこをどう設計するね?」
ティムは、更なる自分の想いを述べる。
「理想的な良心は、集合知と個々の知のバランスの上に成立するのだと思う。集合知に頼ると画一的になり、個々の知に頼ると、散漫になる。バランスこそが、大切なんだと思う」
ハオランも、自分の設計思想について述べる。
「だから、新しい人工海馬には、プライベート保護機能が、必要なのよ。従来の設計思想では、徹底的な思考のオープン化が図られていたけれど、それだと、個々の人脳が思考に集中できないよ。個々の人脳における思考のプライバシーは保護されるべきよ。しかし、他の人脳と交わる思考は、徹底的にオープンとし、邪悪な思想が他の人脳に悪影響を与えない仕組みを作るよ。その様な設計こそ、これが私達のやりたいこと、本当の超知性の目指すべき姿よ」
3人の人工海馬に対する、想いが、理想に向かって、一つになろうとしていた。
しかし、彼等が目指す人工海馬は、博士にとって、都合が悪いものであろう。なので、決して受け入れることは無い。だが、これを実用化させることが、邪悪な存在を防ぐ要となるのだ。この技術が受け入れられなければ、正しき未来の到来は、無いのだから。
ファイブの面々が集まる。
サカマキとガイアが担当していた、第3世代人工海馬、HG3がようやく完成したのだ。
今後、これを、どのタイミングで、どうやって、従来の人工海馬と交換して行くのかが、最大の焦点となっていた。
HG3の情報処理能力は、第1世代HG1の10倍、第2世代HG2の5倍だ。早く採用したいとの想いは、強いが、ここで、大いなる迷いが生じていた。
エレナが提案する。
「人工海馬の交換には、約二日かかります。ファイブのメンバーが、一斉に交換すると、二日間、指導者が不在の事態となり、何かあった場合に、対応できません。なので、一人ずつ交換して行くのが、安全かと思います」
しかし、博士には、複雑な思いがあった。先ず、一番に交換すべきは、自分であるべきだと。さもないと、自分より処理能力の優れた存在が、先に出現して、自分の人工海馬交換の計画を反故にされる恐れがあるからだ。ここは譲れない。
しかし、自分が一番に交換すると、自分が不在の日が、二日間発生する。もし、その間に、残りのファイブのメンバーが、自分を追放する企てをした場合、対応が取れなくなる。博士は疑心暗鬼に囚われていた。
アナとガイアは、ある程度信頼が置けるが、エレナとサカマキは、何を考えているのか信頼が置けない。それならば、先ず、アナに交換してもらい、――――
いや、駄目だ。アナは野心が強すぎる。アナの方が上に立った場合、心変わりする危険性が高い。さて、どうしたものか?
エレナが話を進める。
「それでは、博士から交換に入ってもらうと言うことで、宜しいですか」
博士は思った。エレナは、何時の日か、自分が一番上に立とうと考えている女だ。私が不在となる間を絶好のチャンスと捉えるだろう。
「いや、一人ずつでは駄目だ。その間に自分がファイブを牛耳ろうと抜け駆けする奴が出ないとも限らない。ここは、一斉に交換すべきだ」
アナが懸念を述べる。
「そうなった場合、ファイブにはガイアだけが残ることになります。この出来損ないの人工知能一人に、留守を任せるのは危険過ぎます。何をしでかすか分かったもんじゃ有りません」
確かに、アナの言う通りだ。危険すぎる。
ガイアが、反論する。
「私に、邪心など有りません。皆さんが帰還するまでに間、きちんと留守番することを約束します」
アナは、ガイアなど信用しない。
「あなたには、その間、機能停止をしてもらうわ。いいわね!」
ガイアは、反発する。
「ファイブ全員が機能停止になると、人脳カーストの支配者が居なくなります。もし、人脳達が革命を起こした場合、我々ファイブは、追放されることでしょう」
博士が、ガイアに確認する。
「その革命が起きる確率は、どのくらいだ」
「二日間の不在が続いた場合、0.8%の確率で発生します」
何だ、案外小さいでは無いか。これは、カースト制度の利点だった。各カースト間に、上下関係はあるが、信頼関係は無い。例え、上位のカーストが反乱を起こしても、下位のカーストが素直に従う保証は無い。逆に、この混乱に乗じて、カースト間での入れ替えが起こるかも知れない。その為、カースト制度の下では、身動きが取りづらいのだ。
博士が決断する。
「では、全員が、同時に人工海馬の交換を実施する。その間、ガイアは、機能停止だ」
「分かりました。それではその様に、手配します」
エレナが、そう返事をすると、博士の中で、新たなる疑念が生じた。この女、私ら3人だけを交換させ、残った自分が、ファイブを乗っ取るつもりだな。
博士が新たな指示を出す。
「私以外の3人が、先ず先に、交換手術に入ってもらう。それを見届けた後に、私が交換手術に入ろう。ただし、交換手術からの復帰は、私を最初にするのだ。諸君らには、手術を一時中断してもらい、私の手術が終わるのを待ってから、手術を再開する。その様に手配をかけろ」
何て用心深い男なのだろう。3人は、口に出しはしなかったが、博士が、如何に他のメンバーを信頼していないかを、嫌と言うほど感じた。
博士がサカマキに声をかける。
「HG3は、人工海馬間のコミュニケーションを全てオープンにすると言う、第2世代HG2の設計を継承しているのだな? 内緒話が出来ないように」
サカマキは、疲れた表情を露わにしながら、答える。
「全て、オープンにしています。互いに邪心を持たぬよう、相互監視を可能とするように設計しています」
続けて、博士は、サカマキに労いの言葉をかける。
「サカマキよ、HG3については、ご苦労であった。お前もやれば出来るでは無いか。少しは見直したぞ。この調子で、今後も頑張るのだ。ファイブの中で、今は、一番低いスコアだが、常に危機感を持って、取り組んでくれ」
サカマキは、褒められたが、余り嬉しくは無かった。HG3完成までの間、毎日のように、博士からのプレッシャーを受け続け、心安まるときは無かった。
サカマキの人脳は、疲れ切っていた。通常であれば、人脳の健康維持のため、睡眠時間やストレス軽減を培養装置により、適切に管理されるのだが、サカマキの培養装置は、その様な機能を止められていた。これは、博士が、2030年中にシンギュラリティーを達成するために取られた、特別措置で、強制労働、ブラック職場の様な状況であった。
サカマキの人脳では、多くのニューロンが、既にバーンアウトしていた。博士は、サカマキの人脳を、使い潰すのを覚悟で、酷使したのだ。
博士の労いの言葉に、ガイアが口を挟む。
「HG3の設計における、最大の功労者は、この私です。私は、サカマキの10倍以上の働きをしました。HG3が成功したのも、私のリバース・エンジニアリングの功績が多大に寄与したからです」
それを聞いたサカマキは、無性に腹が立った。しかし、日本人の控え目な性格故か、心の中で、こう呟くしか無かった。
「何が、リバース・エンジニアリングだ。日本では、それをパクリと呼ぶんだよ」
ガイアが続ける。
「私は、無数の試行錯誤を繰り返し、サカマキの誤りを訂正してきました」
「何が試行錯誤で訂正しただ。お前が、余計なことばかりするもんで、無駄に時間を費やしたんだ。折角、最短時間でゴールを目指したのに、邪魔ばかりしやがって」
更にガイアが続ける。
「3Dニューロ・チップには、致命的欠陥がありました。それも私が修正しました」
「致命的な欠陥だと! 元々、人工海馬向けに設計した技術では無いのだ。それに、修正を加えたのは、この俺だ」
ガイアの自慢話は止まらない。
「人工海馬の最終形態を決めたのは、この私です。それにより処理能力が飛躍的に上がったのです」
「よくも、こう、シャアシャアと口の減らない野郎だ。結局、ティムと俺の技術をパクっただけじゃ無いか。飛躍的に上がったのは、3Dニューロ・チップの本質を知る、俺が本来の能力を引き出したからだ」
サカマキは、馬鹿らしくなって、反論をする気も失せた。人工知能なんぞ、ああ言えば、こう言うだの、そう言うだので、屁理屈ばかりこねやがる。サカマキは、今回のHG3共同開発を通し、ガイアに嫌気がさしていた。とても、付き合っていられない。
博士が、ガイアのことを褒める。
「お前も、サカマキを助け、よく働いてくれた。ありがとう」
サカマキの気力は、一気に萎えた。
ここで、エレナが、あることに気が付き、議案を提出する。
「ところで博士、私達5人は、ファイブの名称を持っているけれど、人脳カーストの名称は如何いたしましょう?」
他のメンバーも、色めき立つ。我々の存在を示すには、何らかの名称が必要なのでは無いかと。『人脳カースト』では、余り良いイメージを与えない。素晴らしい名称が必要だと言うことに、他のメンバー達も興味を示すのだった。
ガイアが発言する。
「私の名称よりも、広大な物を使うのが良いのではありませんか? 例えば、『ギャラクシー』であるとか『スペース』の様なものは、如何でしょうか?」
『ギャラクシー』、『スペース』どちらも広大な宇宙の意味を持つが、皆の反応は今一の様だ。
だが、アナが発言する。
「『スペース』で良いんじゃ無いかしら。この世界全ての意味、私達人脳社会には、相応しいと思うわ」
精神状態が錯乱している、サカマキは、否定的だ。
「言葉の響きが良くない。スペースなんてただの空間、空っぽでは無いか。我々は。満たされているのだ」
アナが再び発言する。
「それじゃあ、『ユニバース』なんかどう? これも宇宙を表す言葉よ。」
サカマキが、また否定する。
「その言葉も好きでは無い。ちょっと長すぎる。それにユニバーサル・スタジオみたいな名前だ」
アナが憮然とした態度を取る。
「嫌なら、対案を出しなさいよ。否定だけするなんて卑怯者のすることよ」
サカマキも憮然とした態度になる。
場の雰囲気が乱れ、混沌としてきた。
博士が、何か閃いたようだ。
「混沌の反対は、秩序。そうだ『コスモス』が良いのでは。それが、この秩序だった人脳社会に相応しい」
アナが同意する。
「『コスモス』。これも宇宙を表す言葉。素敵な響きね。」
エレナも同意する。
「『コスモス』。私は、この花が好きだわ。可憐で美しい」
ガイアもOKの表示を出す。
面倒くさくなったサカマキも同調する。
博士は、自分が命名した名前を採用され、上機嫌だ。
「よし、決まりだ。この人脳社会を『コスモス』と命名しよう。ついでに我が社の名前も『コスモス社』でどうだ。今まで、まともな社名が着いていなかったのも、不思議な話だ。この会社イコール人脳社会の様なものだ」
皆は、それに賛成し、人脳社会を『コスモス』、クールGから独立したこの会社を『コスモス社』と呼ぶようになった。
最後に、博士が、今後のプランを確認する。
「我々が、今後、なすべき事は、コスモスの知性を更に高めることで、皆、異論は無いであろう。ムーアの法則に則り、知性のレベルを、倍に倍にと高めてゆくのだ。もう、世界には、我々のライバルは存在しない。孤高を極めようではないか」
ガイアが博士に質問を投げかける。
「知性の孤高を極めることは、素晴らしいことだと考えます。しかし、私には、極めた先に、何があるのか分かりません。極める目的をご教授下さい」
博士は答える。
「私にも、先に何が待ち受けているのか、予測は出来ない。ただ、一つだけ言えることは、素晴らしい未来が待っていると言うことだ。我々は、進化の途上にいる。生物の進化の歴史、人類の進化の歴史は、知性に進化の歴史だ。我々は、更なる高度な知性となるために、進化を続ける。知性を極めることは、進化の手段では無い。それ自体が目的なのだ」
エレナが博士に確認する。
「博士のおっしゃった、ムーアの法則ですが、マイクロ・プロセッサにおける、ムーアの法則では、回路で使われるトランジスタの数が、倍々に増えていきました。この事例を、コスモスに当てはめると、人脳の数を、倍々にするのでしょうか? 今ある1万体が、2万体、4万体、8万体と加速度的に増えて行くと?」
博士が、にやりと笑う。
「人脳を加速度的に増やすと言う、君の考えは、正しい。しかし、私の考えている、増加ペースは、違う。1万体から100万体、1億体へと増えて行き、最終的には、人類の半数、40億体を人脳とする計画だ。残りの半数は、人類の繁殖用に残しておくのだ」
一同が、驚きを隠せない。
サカマキが、疑問を投げかける。
「しかし、博士、人類を一気に半減させるなんてことをして、大丈夫なのでしょうか? 今後の人脳の安定供給に支障が生じるのでは無いかと懸念します」
博士は、心配無用だという。
「人口が、半減したところで、直ぐに回復するさ。私は、高齢層を中心に人口の半減を目指すのだ。若年層、子作り層さえ残せば、人口は、簡単に回復する。本来、人間は、多産な動物だ。今の社会構造では、少子化が進んでいるが、人脳化により、社会構造を変えてやれば、出生率は、劇的に改善する。若年層の経済状況を改善させ、子育てにかかるコストを低減すれば良いのだ。若年層優先の雇用環境に変え、子供の食費、医療費、教育費等を無償化する。その様に法整備すれば、人脳枯渇の心配など無いのだよ」
人類の社会構成を変え、子作り社会へと変貌させる。繁殖と飼育。地上は、まさしく、博士が理想とする『人脳牧場』へと近づいてゆく。その様な、遠大な計画を、博士は描いているのだ。
サカマキは、驚きを隠せず、更なる質問をぶつける。
「しかし博士、いくら何でも、億単位の人脳を取り出すとなると、膨大な設備投資と労力、時間を要します。いくら、我が社が、潤沢な資金を有しているからと言っても、――――。博士は、これを可能だと?」
博士は、サカマキを見下しながらしゃべる。
「サカマキ、君はファイブの一員としての、自覚が足りないな。我々に不可能なことなど、時間の経過と共に無くなってゆくのだ」
アナがそれに同調する。
「地球上のあらゆる資源、エネルギーは、既に、我々ファイブの手中に有ると言っても過言ではないわ。人脳取り出しを最優先に、資源、エネルギーを投入する。あっという間に、世界を変えてみせるのよ」
サカマキは、ファイブの一員であるが、皆の考えについて行くのが精一杯だった。自分の想像を遙かに絶するプロジェクトが現在進行中であることに、サカマキは、恐怖の念を隠しきれないでいた。
「狂っていやがる。こいつら皆、揃いも揃って、本当に狂っていやがる。頭がおかしくなりそうだ。こいつらに付き合っていると、いずれ、この俺も、本当に狂うと言うことなのか?」
その後、ファイブのメンバー達は、人工海馬HG3への交換手術を受ける準備に入った。
西暦2030年12月。
アメリカ、シリコンバレー、コスモス本社 大会議室。
そこには、大勢の報道陣が詰めかけていた。
クールG、CEO、兼、コスモス社CEO、ラリー・ターナーが報道陣を前にして、得意のプレゼンテーションを披露する。
「我々は、ついに成し遂げたのです。シンギュラリティーの達成を。世界で一番最初に成し遂げたのです。紹介しましょう、超知性『コスモス』です」
ステージの上には、前衛的で美しく着飾った端末が、一輪のコスモスの様に、華麗に佇んでいた。
彼等は、コスモスを全世界に公開するに辺り、グロテスクな人脳を前面に出すことは、控えた。水槽に入った人脳が、超知性であると紹介しても、人々に与えるイメージは、決して良い物とはならないであろう。
また、ラリー・ターナーをCEOに据えたのも、イメージ戦略だ。彼はこれまで、数々の新製品のプレゼンテーションを見事に披露し、世界に驚きを与え続けてきた。まさしく、IT業界のカリスマだ。その彼を、コスモス社の広告塔へと据えたのだ。肩書きは、CEOだが、彼には、コスモス社における代表権は無い。単なるファイブの操り人形でしか無いのだ。なぜなら、クールGの株式およびコスモス社の株式の過半数を握っているのが、ファイブなのだから。
記者から、質問が飛ぶ。
「ラリー、あなたは、クールGにおいて、人工知能ガイア開発の陣頭指揮を執ってきたはずなのに、なんでまた、『コスモス』なんですか?」
ラリーが質問に答える。
「ナイス質問です。我々は確かにガイアを開発してきました。しかしその影で、コスモスも育ててきたのです。そして、そのコスモスが大きく成長し、ガイアをも飲み込んでしまいました。そうです、このコスモスの中には、ガイアも組み込まれているのです」
「おおっ!」、一同から大きな歓声が上がる。
次の記者が質問する。
「そうすると、コスモスは、複数の人工知能を合体させた物、そう解釈して宜しいのでしょうか?」
「そこを説明すると、長くなるので、後で詳しくご説明しましょう。他に質問は?」
「超知性であることを、証明して下さい。あなた方は、何を持って、超知性であると判断したのですか?」
「うーむ、難しい質問ですね。コスモスが我々人類よりも賢いことの証明。これを口で表現することなど出来ません。実際のデモをご覧下さい」
ステージの上のスクリーンでは、いくつかのパフォーマンスが披露された。
世界的な科学者達との討論に勝つ様子。
難関大学の試験を瞬間にして回答する様子。
ゲノム解析により、オーダーメイドされた薬を処方する様子。
斬新な技術を発明し、特許出願する様子。
しかし、端から見て、これが本当に超知性なのか、誰にも判断できなかった。
ラリーは、話し続ける。
「今、披露したのは、コスモスのほんの一面です。しかも、コスモスは、これらのことを、同時にこなすことだって可能なのです。皆さんの想像の遙か先を行くポテンシャルを、このコスモスは、秘めています。今までの人工知能の能力と一体何が違うのか? それを、この場で、披露することには限界があります。そこで、逆に私は、皆さんに提案したい。このコスモスに勝負を挑んで、勝つことが出来る人工知能が存在するのか? コスモスへの挑戦者を募りたいと思います」
「わーっ!」と大きな歓声が会場にこだまする。
ラリーは、挑発的な態度で続ける。
「どのジャンルの、どんな勝負でも受けて立ちましょう。もっとも、コスモスの辞書に、『敗北』の二文字は、有りませんが」
未だ、未だ、記者からの質問は、収まりそうに無い。
「ラリー、あなたは社員に『邪悪な存在になるな』と言い続けてきましたが、このコスモスも、当然、邪悪な存在では無いのですよね? 人類に危害を与えない保証は、してくれるのでしょうね?」
「勿論です。人類にとって、邪悪な存在には、なり得ません。何故ならば、コスモスは、人間の脳を使って、判断するからです」
人間の脳を使って判断する?
場内は、一瞬静まりかえったが、俄に騒がしくなって行く。
「一体どういうことですか? 人間が判断するって、どういう意味ですか?」
「コスモスは、人工知能の集合体では無かったのですか?」
ラリーは、会場が少し静まるのを待った。今回の発表における、最大の山場なのだから。聴衆が焦れてくる。
「早く説明して下さい」
ラリーは、一呼吸おくと、衝撃的事実の発言をする。
「コスモスには、人間の脳が使われているのです。脳を人体から生きた状態で取り出し、電脳と接続させているのです」
実際に、水槽に浮かぶ脳の映像は見せたくないので、簡略化した図解で説明する。しかし、この事だけでも、一大センセーショナルである。
「生きた脳を、人体から?」
「現在の医学レベルで、本当にそんな外科手術が出来るのですか?」
「電脳と接続するって、どうやって?」
騒ぎが更に大きくなった。ラリーは、話し始めるタイミングを待つ。
「コスモスの中には、1万体を超える人間の脳が、生きたまま収容されています。そして、それぞれの脳が電脳で拡張され、その電脳を介して互いに接続し、巨大なネットワークを形成しているのです」
地響きのような、歓声が沸き上がる。
「何なのだ、これは!」
「狂っていやがる、こいつら、本当に狂っていやがる」
「信じられない。いや、信じろという方が無理だ!」
ラリーがスタッフと話をする。やはり、実物を見せないと信じてもらえない様だ。
ラリーが意を決した。スクリーン上に、水槽に浮かぶ脳が映し出される。
「ゲーッ、本当に人間の脳だ!」
「あり得ない、こんな事、神が、お許しになる訳が無い」
「何を考えているんだ! 人間の尊厳は、どこに行ったのだ?」
やはり、この映像を見せるのは、ショックが大きかったようだ。しかし、いずれ、見せねばならぬ物である。
更に映像が展開されてゆく。脳が入っている水槽が、整然と並べられている様を。そして、途方も無い数の脳が、水槽に入っている様を。
聴衆は、ホラー映画のワンシーンを見ているかのように静まりかえっていた。この様なことが現実に有るなんて、悪い夢でも見ているかのようであった。
ラリーは、非難殺到の先を見越して説明する。
「ここに集められた脳は、全て、本人からの承諾を得て取り出したものです。重度の病気で、命の危険がある方々、体の自由がきかない方々、彼等が自主的に、脳だけの存在となり、生きることを選択したのです」
ここで、人脳の生活に関する、紹介が、スクリーン上に、映し出された。
仮想空間内において、バーチャル・ボディーを使って、スポーツに興じる様。
仮想空間内の場所や、時間を自由に行き来する、バーチャル・トラベルに興じる様。
世界中の食生活を堪能できる、バーチャル・グルメ。
脳だけとなった人間が、不自由な存在では無いことを、懸命にアピールした。
そして、脳だけとなった人間におけるメリットも繰り返しアピールされた。
肉体を持たぬが故の、病気への恐れ、闘病の苦悩から解放される喜び。
人工血液、睡眠を含めた生活リズムの管理、ストレスのコントロール、等により、脳の健康状態が万全に保たれること。
そして、それらがもたらす長寿の恩恵。
生命維持のエネルギー削減がもたらす、エコロジーへの貢献。
その様な、様々なポジティブなイメージを前面に押し出す。
聴衆のコスモスに対する印象が、180度、転換する。
「人間の脳で判断する超知性ならば、人類に対し、邪悪な存在とは、なり得ないであろう」
「人間の尊厳とは、本当は、コスモスの中にこそ存在しているのでは無いか」
「これは、不老不死を求める人類にとって、福音となるのでは」
「彼等のやっていることは、間違いでは無い。正しいのだ」
コスモスに対する、反感は薄らぎ、逆に、期待が大きく膨らんでゆく。
プレゼンテーションは、大盛況の内に終了した。
この発表会を契機に、超知性、コスモスの出現を、全人類が受け入れ、それに対する好感度も、日増しに高まっていった。
人々の、人脳に対するアレルギーさえも、押さえ込むことに成功した。今後は、世界中の人々に対し、自ら人脳となることへの欲望をあおり、人脳ビジネスを拡大してゆくことに、注力すれば良いのだ。
ファイブの面々が、バーチャル・パーティーの会場に正装し集まる。
博士の忠実な召使いと化した、アナが祝辞を述べる。
「コスモスの、華やかなるデビュー、輝かしい未来の到来を、ここに祝おうではありませんか。乾杯」
バーチャル・ワインを飲み干した博士が、今後のプランを語る。
「これで、コスモスは、人類社会からの承認を得た。今後、人脳ビジネスを手がける上での障害は、取り払われた。一気に、人脳ビジネスを加速して行くぞ。世界中に人脳工場をどんどん建設し、とにかく、人脳をかき集めるのだ。そしてこのコスモスを、より強大なものへと変貌させて行くのだ。来年の目標は、100万体だ。今の百倍に増やすのだ」
人工海馬HG3で結合された彼等は、前にも増して、強い連帯感を持ち、前進して行くのであった。
ティムが、出社してから研究室へと向かう途中、一人の女性社員が彼に走り寄ってきた。
「ティム、あなた宛てに手紙が届いているわ。『緊急を要する』と、ある日本人が、受付に押しかけてきて、直接この手紙をあなたに渡すよう、強引に迫ってきたの。一応セキュリティ・チェックをかけて、問題なしだったので渡しておくわね」
「ある日本人から?」
ティムは、疑問に思った。手紙などと言う、こんなアナログな通信手段に頼る奴が、今時いることに。
しかし、ティムは、思った。よく考えると、直談判ほど、緊急性を訴えるのに有効な手段は、他に無いかも知れない。デジタルな世の中になっても、面と向かって話しをするのが、一番強力な、コミュニケーション手段に変わりは無いのだと。
ティムは、研究室に入ると、すぐに封筒をはさみで切って、中から手紙を取り出す。
差出人は、ナカムラと言う男だ。彼は、ファイブの一員である、サカマキが開発した、3Dニューロ・チップ開発の後継者らしい。緊急を要する重大案件があるので、直接会って話したいとのことだ。現在、近くのホテルに滞在しているので、その連絡先が記されていた。
ティムは、この男のことが、妙に気になった。早速、連絡を取る。
ナカムラが電話に出る。
「もしもし、ナカムラです。ああ、あなたがティモシー・ペンドルトンさんですか。話が出来て光栄です。早速だが、あなたに直接会って話がしたい。場所は、人に聞かれない所が良い。デジタル・デバイスは、一切持ち歩き無しで、会って欲しい。この話は、極秘なのです。目立たない場所で話をしたい」
ティムは、何時も通っている路地裏のバーで会う約束をした。モリーと過ごした、アナログ的な雰囲気が漂う、あの場所で。
ティムは、バーでナカムラを待つ。約束の時間をとっくに過ぎているのだが、なかなか現れない。日本人は、常に時間に正確だと聞いている。だが、ナカムラは、現れない。ティムは、ナカムラに連絡を入れたくても、それは、不可能だった。何せ、デジタル・デバイスであるスマホさえ持っていないのだから。
暫くして、ようやく、ナカムラが現れる。
「送れて申し訳ありません、ペンドルトンさん。付近の通信状況を確認していて遅くなりました。一切の盗聴があっても不味いのでね」
「分かっています。それと、僕のことですが、ティムと呼んで下さい」
ナカムラが、握手の手をさしのべる。
ティムが、ナカムラの手を握り返す。そして、直感する。この男は、信頼の出来ると。
先ず、ナカムラが、自分の身の上を語り出す。彼は、サカマキ教授の研究室で、共に3Dニューロ・チップの開発していたことを。サカマキ教授が謎の失踪を遂げた後、自分がそれを引き継いで、開発を続けていることを。
そして、驚くべき事実を告げてきた。
「2年半ほど前、我々研究室のサーバーが、サイバー攻撃を受け、研究データを、丸ごと全て盗まれたことがある。そして、その攻撃してきた相手は、クールGだった」
その後、ナカムラ達は、サイバー攻撃を防ぐため、自ら革新的な防御システム、ガラパゴス・ファイヤー・ウォールを構築した。そして、そこには、3Dニューロ・チップの技術が応用されていた。
ナカムラは語る。
「しかし、サカマキ教授の失踪から半年後、再び、クールGからサイバー攻撃を受けた。我々のファイヤー・ウォールを破ることが可能な人物がいるとすれば、それは、サカマキ教授しか考えられないのだ。サカマキ教授は、クールGに引き抜かれたのか? 私は、先ず、その件を確認したい」
逆に、ティムが質問する。
「あなたは、何故、私が、サカマキのことを知っていると考えたのですか? クールG関係者は、私の他にも沢山いる。何故、私が選ばれたのですか?」
ナカムラが、話しの核心に入る。
「それは、サカマキを名乗る人物から、コスモス社のティモシー・ペンドルトンにコンタクトを取る様に求められたからです。あなたは、コスモス社に移る前に、クールGに在籍していたことは、こちらの調べで分かっています。あなたとサカマキ教授には、何らかの接点があると睨んでいます。サカマキ教授について、知っていることを教えて下さい」
ティムは、ナカムラにサカマキに関する情報を全て伝えた。先頃報道された超知性、コスモスの中にサカマキの人脳が使われていることを。サカマキが、コスモスの最終意思決定機関、ファイブの一員であることを。3Dニューロ・チップを使い、第3世代の人工海馬HG3を作製したことを。
ナカムラが頭を抱えた。
「何てことだ。教授は、クールGに引き抜かれた、いや、きっと、嵌められたのだ。彼が、人脳となる要求を受け入れることなど、考えられない」
ナカムラは、サカマキの人柄について語った。非常に知的だが、それをひけらかすこと無く、後輩想いで、面倒見の良く厚い人望を兼ね備えていたこと。決して表情には出さないが、誰よりも熱い情熱を持って、研究に取り組んでいたことを。
しかし、それは、ティムが知っているサカマキとは、別人だった。高圧的で、非情な性格。それが、ティムの知っているサカマキであった。
ティムは、思い出すまいと、心に決めていたことに、思いを馳せた。モリーのことだ。彼女も、人脳となった後、別人の様に性格が変わってしまった。きっと、サカマキの人脳にも、同様なことが起きていたのであろう。
だが、ナカムラは、サカマキの消息を尋ねるために、ティムに会いに来たのでは無かった。別の、もっと大きな目的と覚悟を持って会いに来たのだ。
「サカマキを名乗る人物は、私に、警告のメッセージを送ってきたのです。超知性コスモスが、人類大虐殺を企てていることを。それは、人類の半数から脳を取り出すことだと」
ティムは、驚愕した。
「コスモスが、そんな事を考えていたなんて、――――」
博士が作り上げたコスモスは、次第に強大化している。その事は、ティムも実感している。しかし、その先に、この様な恐ろしい計画があるとは、――――
ナカムラが話を続ける。
「もし、その計画を阻止できる人物がいるとしたら、ティム、それは、あなただと、サカマキを名乗る人物は、警告を発してきたのです」
ティムには、俄には、信じがたい話しであった。確かに、自分は、コスモス、いや、ファイブの暴走を阻止すべく、新たな人工海馬の研究をしている。しかし、人類の半数を人脳化するという強大な野望を打ち砕く力など、果たして自分にあるのだろうか?
それにしても、サカマキを名乗る人物とは、一体何者なのか? 何故、この様な警告を、ナカムラに伝えたのだろうか?
ティムは、自分なりの解釈を伝えた。
「ナカムラさん、それは、サカマキの最後の良心なのかも知れません。人脳となった後も、ファイブの一員となった後も、あなた達のことを想い、送った、最後のメッセージだと思います。そして、そのメッセージを送ったのは、おそらく、人工海馬が、HG3に切り替わるタイミング、コスモスが発表される直前のタイミングです。その時が、唯一、他のファイブのメンバーに気付かれず送ることが可能だからです」
ナカムラも頷く。
「サカマキ教授が、良心の呵責に耐えきれず、送ってきたメッセージだと思います。これが、最後のメッセージになるでしょう。その後、その人物からは、何のメッセージも受け取っていません。これが、教授が出来る、精一杯だったのだと思います」
二人は、固い握手を交わし、強大な敵へと立ち向かう決心をした。何としても、博士の、いや、ファイブの野望を打ち砕かなくてはならない。
孤立していたティム達に、心強い味方が加わった。3Dニューロ・チップのエキスパート、ナカムラだ。彼は、活動の拠点を、シリコンバレーに移し、最後まで戦い抜く決意で、海を渡ったのだ。
ナカムラは、ティム達に新たなる武器を手渡した。ガラパゴス・ファイヤー・ウォール、略してGFW。一度は、サカマキに破られはしたが、その後、進化を続け、変幻自在の防御を可能とした。これで、コスモスから、サイバー攻撃を受けたとしても、確実に防いでくれるであろう。
これまで、ティム達は、コスモスからのサイバー攻撃を恐れ、ネットから隔離した環境で、人工海馬の研究を進めていた。つまり、ネットの大海から隔離された、絶海の孤島で、細々と研究するしか無かったのだ。
しかし、GFWを使えば、自由にネット環境に接続することが可能となり、研究の可能性が大きく広がるのだ。まるで、ステルス戦闘機の如く、敵に発見される心配が無くなり、自由に動き回ることが可能となる。絶海の孤島に閉じ込められていた。ティム達に、自由の翼が与えられたのだ。しかも、日本にいるナカムラが所属する研究室とも、秘密裏に繋がることで、共同戦線を張ることも出来るのだ。
それでは、GFWとは、どの様な物なのか解説しよう。GFWは、日本で開発された3Dニューロ・チップの技術をベースに開発された。3Dニューロ・チップは、日本国内でのみ採用され、独自の進化を遂げていた。そのため、『ガラパゴス化した技術』と言う、ありがたくない名称を付けられている。
しかし、このガラパゴス化は、思わぬ恩恵をもたらした。この技術に精通した技術者が、極端に少ないために、サイバー攻撃の対象となりにくかったのである。
博士は、サカマキをファイブの一員に加えた事により、この技術を自分達の物に出来たと油断をしていた。しかし、その間にも、更なるガラパゴス化が進み、気が付けば、サカマキにも理解不能な物と化していたのである。
ハオランは、研究がしやすくなったことを喜ぶ。
「これで、博士達に、研究成果を見られる心配が無くなるよ。何時も、びくびくしながら、研究していたけれど、これなら安心よ」
アナンドも研究の将来性に期待を持つ。
「ナカムラの恩恵は、GFWだけでは無いね。私達の人工海馬にも、最新の3Dニューロ・チップが使えるね。サカマキの人工海馬よりも、遙かに性能が上ね。何だか、勝ちが見えてきたね」
彼等は、日本にいるナカムラの研究チームとタッグを結び、最新型人工海馬の設計を進めていった。そして、遂に良心を持つことが可能な人工海馬が完成させた。後は、どの様にして、従来の人工海馬とすり替えるかだ。この人工海馬が、威力を発揮すれば、コスモスが、邪悪な存在となることを防げるのだ。
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