第四話 行政担当官は、関係部署との連携を密にする。

 王立高等学院の歴史の先生は、授業で「系統トライブ」についてこう教えていた。

「えー、おおよそ千年前の第五次世界大戦時に、大規模魔法災害『魔法汚染マジカル・ポリューション』が発生しました」

 老眼がかなり進んだ人族の教師は、教科書を前後に動かしながら話を続ける。

「あー、細かいことは全然分かりませんが、なんでも『矛』魔法と『楯』魔法の正面衝突により、変質した魔法がそれまで同じ種族だったジェニスの民を『系統トライブ』に分割したと言われています」

 これにより、ジェニスの民は大きく「人族マン・トライブ獣族ビースト・トライブ妖精族ピクシー・トライブ、その他の稀少種族」に分かれたという。

 ただ、系統が異なっていても生殖機能は共通なので、系統をまたいで結婚しても普通に子供が生まれる。

 しかしながら、その場合にどちらの外見的特徴や肉体の機能とそれに付随する能力が発現するかは、全くのランダムになる。

「んー、ここはよく試験に出るので注意して欲しいところですがー、基本的に能力は外見で決まるものの、たまーに見た目と能力が異なる『交族クロストライブ』が生じることがあります」

 そこで先生は老眼鏡を持ち上げると、興味のなさそうな声で授業をこう締めくくった。

「でー、これは殆ど試験には出ませんがー、外見と能力が異なる者の中には、さらに外見を変化させることが出来る極めて稀な現象、『交族変化クロストライブ・ミューテーション』が生じることがあると言われています」


 *


 ということで、ロランドは再びヴィルヌイの後ろに付き従って、総務省の廊下を歩くことになった。

「王国行政担当官たるもの、関係部署と連携して事に当ることが多いから、主要な人物の顔と名前は速やかに覚えておくに越したことはない」

 そう言いながらヴィルヌイは長い黒髪を揺らして前を進む。ロランドは彼女の後頭部を眺めながら、小さく溜息をついた。

 念願通りの事務方配属なのだから、もう少し「よし、やるぞ!」という気分になってもよさそうなものだが、一向にそんな気になれない。

 なにしろ、任命式から配属式にかけての一連の経過から、彼の採用は目の前の人物の暗躍によって暗黙裡のうちに行われたことが明らかになった。

 となれば、逆に彼の配属は総務省全体に速やかに知れ亘っていることだろう。人知れず地味で地道な役人生活を送りたかった彼にとっては、想定外の事態である。

 それでも地方軍配属よりはましだと思いたいものの、この策略好きの上司に仕えるとなれば怪しいものだ。

「まずは人事第一課から挨拶に行くぞ」

 妙に嬉しそうな声でそう言うヴィルヌイを見つめながら、ロランドは足が急に重くなるのを感じた。

 ――ああ、一番不味い課だよなあ。

 人事第一課といえば、王国全体の人事異動を統括している部署である。採用と配属に関しては人事第五課が担当するが、配属後の異動に関しては人事第一課が担当する。

 ロランドはヴィルヌイに恐る恐る訊ねた。

「あの、人事第一課に睨まれると最前線の地方軍送りになるという噂がありますが……」

「あん? ああ、それね」

 ヴィルヌイは一瞬唖然とした顔をして振り返った後、即座に人の悪い笑みを浮かべながら前に向き直る。

「よくある噂だが、人事第一課の普通の行政担当官レベルにそんな権限はないよ。人事異動というやつは直属の上司が申請して、部門内の承認手続きを経てから、人事第一課にもたらされる。人事権というのはそういうものだよ」

「そうなんですか。なんだ、人事はもっと、その、警察みたいなものかと思っていました」

「行政担当官を常に監視していて、役に立たない者は速やかに処罰する、という意味かな」

「はい」

「それは全くの誤解だよ。私達には捜査権すらないんだからね。普通の人事担当者にはそんなことはできないよ」

「なんだ、そうなんですか。いやあ、私はすっかり……」

 そこで急にロランドは、ヴィルヌイの話の中におかしな点があったことに気がついた。

「……あの、課長」

「どうかしたか、ロランド君」

「先程の話の中に気になる点があるのですが」

「ふむ、どの部分のことかな。言ってみたまえ」

「はい、その――普通の行政担当者とか、普通の人事担当者とか、限定的な表現があったのですが……」

「ほう、よく話を聞いていたな。その通りだよ――」

 ヴィルヌイは再び振り返る。その顔にはまた人の悪い笑みが浮かんでいた。

「――人事第一課長のチェレンボーンは例外だからな」


 *


 そのチェレンボーン本人は、開口一番こう言った。

「そろそろ来る頃だとは思っていたが、想定よりも五分ほど早かったな、ヴィルヌイ」

 それに対して、ヴィルヌイが答える。

「別に考えてそうしたわけではないよ」

「そんなことはあるまい。仕事に関する限り、お前が気分で動くことはありえない。とりあえず職場に連れて行って着任したという既成事実を作った上で、さらにそれを確固たるものにするために人事各課に顔を出すところなのだろう?」

「だから、そんな細かいことは考えていないよ。ただの挨拶だって。うちは各課との連携が本分だからね」

「ふむ、まあ良い」

 続いてチェレンボーンはロランドを正面から見つめると、微笑みながら言った。

「正式に挨拶をするのは初めてだな。私は人事第一課長を拝命しているチェレンボーン・イムトルだ」

 よどみなく右腕が差し出されたので、ロランドも右手を出して握手する。

「はあ、私はロランド・キーヴァードです。宜しくお願い致します」

 ロランドの手を握ったまま、チェレンボーンは言った。

「それにしても迂闊だったな。今年の大学卒業生の中にキーヴァード家の者がいたとは知らなかったよ。もう少し話題になっても良さそうなものなのに、地方軍の連中も騒いでいなかった。どんな魔法を使ったんだい?」

「はあ、別に私は何もしておりませんが」

「そんなことはない。現に学科試験の成績は、これまでの受験生の中でトップだよ。まさか自分の記録を抜かれるとは思ってもいなかった」

「……その、申し訳ございません」

「いやいや、謝る必要はない。これから宜しくお願いするよ」

「はあ、宜しくお願いします」

 快活に話しかけるチェレンボーンに、ロランドはぼんやりとした反応を示す。それを黙って見ていたヴィルヌイは、

「さて、それでは先を急ぐのでこのぐらいで」

 と間に入って握手したままだった手を離させると、ロランドの背中を押しながら人事第一課の執務室を出て行った。

 部屋にいた人事第一課員から思わず失笑が漏れる。それぐらい、ロランドの反応が鈍かったからだ。

 チェレンボーンは相変わらず穏やかな表情のまま、部屋の中を見回すと、ベルファに視線を止めて僅かに首を傾けた。

 彼女は速やかにチェレンボーンの傍らに歩み寄る。そして、チェレンボーンの瞳が笑っていないことに気がついた。

「君はどう見た?」

 チェレンボーンが笑わない目で訊ねたので、ベルファは素直に答えた。

「特に何も。普通よりもぼんやりとしたとした人間にしか見えませんでした」

「ふむ、そうか。まあ、そうだろうな――」

 チェレンボーンが右の掌を見つめながらそんな曖昧な言葉を口にしたので、ベルファは内心驚く。


 *


「はああ、今のは大変やばかった」

 廊下を歩きながら、ヴィルヌイが盛大に息を吐いた。

「ロランド君、すっかりばれたと思うから、今後気をつけるように」

「はあ、あの、私は別に何も隠しては……」

「分かった分かった――」

 ヴィルヌイが苦笑いしながら右手を振る。

「――それで、君は彼のことをどう思った?」

「どうっていわれましても……」

 ロランドは首を傾げた。


 彼も大学在学中からチェレンボーンの逸話は聞かされたことがある。

 特殊能力を持たない人族の平民出身で、特にバックボーンもないまま行政担当官に就任したにもかかわらず、若くして人事第一課長を拝命した頭脳明晰な男。

 その優秀さは大学在学中から知られていて、卒業前に各省からの事前工作があったと言われている。ところが、彼自身は総務省入省を希望し、人事第一課に配属された。

 以来、チェレンボーンは戦場における武功評価の担当者――武功評価官として数々の戦場に足を運び、平民出身であるが故の公平さで評価し続けた。

 その的確さで彼は知られており、チェレンボーンがいる戦場では自然に兵士の士気が上がると言われているほどだが、それ以外の面でもよく知られていた。

 武功評価官は戦術会議にも同席しているから、その際に戦術に関する意見を求められることがあるのだが、その面でもチェレンボーンは華々しい功績を残した。

 例えば、敵陣を攻略するにあたり達成すべき目標を全軍に提示して、部隊単位で達成のための行動目標を立てさせ、作戦遂行時は各部隊に大胆に権限委譲するという戦術――「MBO(マネジメント・オブ・バトル・オペレーション)」は、彼が考

案したものである。

 他にも、優秀な魔道士が構築した魔法防壁を、配下の魔道士が模倣して多重化することで呪文処理時間を短縮し、防壁を強化する手法――「へいシステム」や、王国の理想的な兵士像を「コンピタンス」という個人名で定義し、その理想像に

近づくことを目標として教育を構築するという育成プログラム――「コンピタンシー」を編み出したのも、彼である。

 そもそもが、大学を出たばかりの若造の鼻っ柱をへし折るために投げかけられた無理難題が発端だったのだが、チェレンボーンはそれに対して的確な意見を提示し続けている。

 まさに戦場における神のごとき存在――それがチェレンボーンだった。

 ロランドもそのことは充分承知している。

 しかし、彼は先程のチェレンボーンの印象と、その評価の間に違和感を覚えていた。それで、感じたことをそのまま口に出してみる。


「……案外に普通の人だったので驚きました」


 それを聞いた途端、ヴィルヌイは一瞬だけ意外そうな顔をした後、盛大に噴き出した。  

「うぁははは――こいつは面白い! あのチェレンボーンを普通の人扱いしたのは、私が知る限りお前が初めてだよ」

「いや、その、ですから、もっと怖い人だと思っていたという意味でですね――」

「分かった分かった、いや実に結構!」

急に上機嫌になったヴィルヌイの後ろを、ロランドは居心地が悪そうに身体を震わせながら歩いた。


 *


 人事第五課長のドゥーランは獣族である。

「王国の将来を担う有望な人材を採用する」ことが人事第五課の使命であり、その業務内容は人族の得意分野そのものであるから、過去においては伝統的に人族が部署長として君臨してきた。

 しかし数年前に起きた問題以降、ドゥーランがその任に当たっており、当初の周囲の危惧とは裏腹に彼は職務を見事に全うしていると、高く評価されている。

 そんな前情報をヴィルヌイから聞きながら、ロランドが第五課のオフィスに着いて恐る恐る中をのぞくと、件のドゥーランはデスクの上に足を投げ出して寛いでいた。

「おお、ヴィルヌイとロランド君じゃないか。よく来たね」

 ドゥーランは身を起こすと、犬系統特有の人懐っこい顔をして盛大に尻尾を振る。

「はあ、どうも」

 ロランドはなんだか気が抜けたような返事をした。

 ドゥーランとヴィルヌイは顔を見合わせると、同時に噴き出す。

「いや、分かる。ロランド君の言いたいことは非常に良く分かる」

 ドゥーランは盛大に尻尾を振りながら言った。

「まあ、君にも分かっていると思うけれども、あれは職務上必要なことだからね」

「はあ、まあ」

 ドゥーランが言う通り、ロランドも何となく理解出来てはいるのだが、それにしてもこの変わりようはなかなか慣れない。部屋を恐る恐る覗き込んだのもそのせいだ。

 実際、行政担当官採用面接時のドゥーランは別な生き物だった。いかにも精悍な顔つきに獲物を狙う鋭い視線、そして剥き出しにされた牙と低く響く唸り声という、獣の特性すべてを表に出したものだったからである。

 面接を受ける側にとっては、すぐにでも取って食われそうなドゥーランの姿は脅威であり、それを見ただけで面接室から飛び出してきた者までいるほどだった。彼は面接ではほとんど質問しなかったが、存在そのものが圧迫である。

 それが今は、眼を細めて舌を盛大に出し、尻尾を切れんばかりに振っている。

「こっちのほうが本来の姿なんだけどね――」

 ドゥーランは楽しそうな声でそう言った。

「――しかし、この姿では相手に舐められるからね。まあ、立ち話もなんだから座って、座って」

 彼は目の前にある机と椅子を手で指す。

 そして、ヴィルヌイが腰を下ろした途端に、こう言った。

「しかし、ヴィルヌイも実に人が悪い。着任式が終わった後、すぐにチェレンボーンがここにやってきて質問攻めにされたよ。主に僕がどこまで関与していたか、という点だけどね」

「ああ、すまなかったね。ドゥーラン」

「まあ、人事第六課には常々助けて頂いているし、確かにキーヴァードが入るとなれば地方軍が黙っていない。既に水晶盤通信で地方軍将校クラスから問い合わせが入ってきてる。流石に速いね」

「迷惑だったかな」

「いやいや大丈夫。人事局相手に戦争をしかける気は彼らにはないよ。単に一言言いたいだけさ。それに彼らだって有望な新人の配属に関して、無理を言ってくることがあるわけだしね。僕は君以外のお願いなんか聞かないけどね」

 そう言ってドゥーランは笑った。

 実のところ、前任者が失脚した理由がまさにそれである。各方面からの配属要望を通す見返りを求めたのだ。 

「それにヴィルヌイとは基本的にギブ・アンド・テイクだからね。期待しているよ」

「分かってる」

 実に仲のよい二人の会話を聞きながら、ロランドは自分がどれだけ危ない橋を渡っていたのか理解して、蒼ざめた。自分が考えている以上に両親の存在は地方軍にとって大きいのだ。 

「そうそう――」

 ドゥーランは自分の水晶盤を手に取ると、

「――人事第六課で役に立たなかったら、すぐにこちらに回してくれという要望が、既に二件来ているのだけれど」

 と言いながら、ロランドを見つめる。

「精進します」

 ロランドは盛大に汗を流しながら言った。


 *


「次は人事第三課ですか」

 ロランドは、初日からチェレンボーンとドゥーランという、非常に心臓に悪い二人を相手にして、すっかり気疲れしていた。

「今度は平穏な話になることを望みます」

「まあ、第三課は大丈夫だと思うよ。なぜなら――」

 ヴィルヌイは人の悪そうな笑顔を浮かべる。

「――今は、戦争状態の真っ最中だからね。ほら、見えてきた」

 人事第三課は、行政担当官の給与および社会保険を担当しているから、戦場とは一番かけ離れた世界のはずである。ロランドが頭を捻りながら廊下の向こうを見つめると、そこにある扉から威勢の良い声が聞こえていた。

 誰かが次々に指示を出しているらしい。

 それに対する「イエス、マム!」という受け答えを聞き、ロランドはヴィルヌイが言った「戦場」という言葉の意味を悟った。

 行政担当官の任官式は月初めに行われる。

 そして、行政担当官の給与関係の締めは月末になっている。

 今、人事第三課は月末締めの勤務情報と申請関係に、新人行政担当官の着任手続きが加わって、戦場のような忙しさなのだ。

 ヴィルヌイとロランドが開いた扉から中を覗き込むと、大勢の行政担当官が机に座って水晶盤を叩いていた。

 部屋の窓側、中央には他より一段高くなっている場所があり、その上に一人の女性が座っている。彼女は手元の書類を一瞥するなり、こう言った。

「ローラ、この休暇申請書なんだけど、申請者は王国空挺部隊所属の飛龍の子だよね? 彼らは卵生だから産前はともかく産後の休暇申請はおかしくない?」

「えっ、その子、飛龍なんですか?」

「そのくらい名前見て気がつきなさい。現認を要する、で差し戻し!」

「イエス、マム!」

 担当者は書類を受け取ると、大慌てで部屋を出てゆく。その後姿を見ることもなく、壇上の女性は書類を次々と一瞥し、押印してゆく。

 殆ど見ていないのではないかと思われるほどの短い時間だったが、途中で彼女は書類を見た瞬間に言った。

「ミリム、ここの金額間違ってる。魔法技能検定の火焔召還技能二級合格者の職務給加算は三千ゴールドだよ。全件検算、で差し戻し!」

「イエス、マム!」

 ミリムと呼ばれた女性は、紙を受け取って席に戻るや否や水晶盤を猛烈な勢いで叩き始めた。頭から検算し直しているのだろう。

「ね、戦場でしょう?」

 ヴィルヌイからそう言われて、ロランドは頷いた。

「全くですね」

「お邪魔になると悪いから、ここはまた後日挨拶に来ましょうか」

 そう言ってヴィルヌイとロランドが踵を返そうとしたところで、

「そこ、扉の外の二人、ちょっとこっちに来なさい!」

 と、壇上の女性――人事第三課長、妖精族のアメリアから声がかかった。

「特にそこの新人、君に言っておきたいことがある」

 アメリアはロランドを見つめると、眉を潜めて言った。

「空を飛んで通勤するのは禁止ね。怪我すると通勤途上災害だから」

 ロランドは王宮内でベルファに乗せてもらったことが伝わっていることに驚く。

 それで、しどろもどろになりながら、

「はい、あの、すみませんでした。魔法で一緒に空を飛ぶのは――」

 と言ったところで、アメリアが怪訝そうな表情をしたことに気がついた。

「違う違う、そっちのことじゃなくて――」

 アメリアは軽く手を振る。

「――自宅から打ち上げられたほう。魔法のほうは別に構わないよ。ベルファ・ギンズブルックの資格登録申請書に『同乗許可』とあったから合法」

「……はい、分かりました。以後気をつけます」

 ロランドの反省を聞き届けると、アメリアは続いてヴィルヌイに話しかける。

「ヴィルヌイ、急な配属だから申請書が間に合っていない。今月の初任給を払う気があるんだったら、明日までに書類を回して頂戴」

「分かったよ、アメリア」

「それからなんだけど――」

 それまで流れるように指示を出していたアメリアが、急に言葉を切って、ヴィルヌイのほうを見つめる。

 それから怪訝そうな声でこう言った。


「貴方が新人を欲しがるなんて、思ってもみなかった。前に『素人じゃあ三日で死ぬからいらない』って言ってなかったっけ?」


「いやまあ、それにはいろいろと事情がありまして」

 その日初めてヴィルヌイは怯んだ様子を見せたが、ロランドはそれを珍しいと考えている余裕はなかった。彼はアメリアに向かって言った。

「あの、それはどういう意味で――」

 そこで、王宮内に鐘の音が鳴り響く。

 アメリアは即座に立ち上がると、

「あ、悪い。終業時間だから私帰るわ」

 と言って、制服の裾を翻す。

 ロランドがその変わり身の早さに呆気に取られている目の前で、人事第三課の扉は閉じられてしまった。

「あの、今のはどういう意味で――」

 ロランドは、今度はヴィルヌイのほうを向く。


 すると、彼女はさっさと背を向けて廊下の向こうを歩いていた。

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