第28話

「何のためにあいつは現れたんだろうね」

「うん……。分からない」

僕はベッドから起き上がらずに、ただ天井を眺めていた。白い壁紙の貼られている天井にあいつの整った顔がぼんやりと浮かんでいるような気がする。

「別に意味とか理由なんてないのかもしれない。本当に、あいつがたまたま昼に来た屋上に僕がいたというただそれだけなのかもしれない。そこでただ、何の意味もなく、僕たちはいくつか会話をしたってだけなのかもしれない。ただ偶然が……偶然というか、そのように時が流れただけなんだよ。だから昨日まで僕があいつのことを忘れていたとしても特に意味はないし、あいつがお化けなのか人間なのかってことも、何の意味もないんだよ、きっと。その日、僕は屋上にいて、そこにあいつが来た。僕には友達がいなかった、そして漫画雑誌を持っていたって、ただそれだけなんだよ」

「何か、友達が出来る手助けをしてくれたとか……?」

「うーん……、直接的には考えにくいな。その後すぐに友達が出来た訳でもないし、そもそもあいつのことを僕は忘れてしまっていたんだし。ただあいつがどういう人間だったかなんて僕には分からないんだけど、僕はあいつと違って生きていたんだよね。友達がいなくても、とにかく生きていた。あいつが本当にお化けだったとしたなら、僕とあいつの大きな違いはそこに尽きるよ」

「そう、よね。死んでしまったら……うん、たくさんの幸せと不幸を失くすことになるから……」

「うん、その通りだ」

窓際に立つ彼女を見ると、真っ直ぐに僕と目が合った。彼女はベッドに横たわる僕の所まで来て、とても軽いキスをした。

「でも、一つだけ偶然もある」


■古びた町の本屋さん

http://furumachi.link

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る