第27話

 薄暗い部屋の中で彼女の顔をはっきりと認識することのできないまま、それでも時間はゆっくりと流れていたけれど、あいつの話をしているとどうもそれがまだ夢の中にいるような感覚になってしまうのが不思議だった。あいつはやはり、僕にとってとても不自然な存在なのだ。

「その後は?」

「僕は教室に戻ったよ。それでやっぱり僕の友達は一人もいないままだった」

「それからその人ともう一回会ったりはしてないの?」

「ないよ。その時ただ一回だけ。……僕は記憶力がそんなに悪い方だとは思わないんだけど、あいつのことはすぐに忘れちゃっていて。昨日まで僕があいつと話したこととか、あいつと会ったという事実自体を、本当にすっかり忘れていたんだ」

「忘れてた?十年前にここから飛び降りたなんて突然言ってくる初対面の人のことを?」

「そう。多分……教室に戻った段階で忘れてしまっていたような気がするんだ」

「……ふーん。不思議ね」

「不思議なことばかりだ。昨日、あいつのことを思い出した時に、あいつが僕の記憶の中にまだ残っていたのだっておかしく思えるくらいなんだ」

彼女はベッドから起き上がってカーテンを開けた。一斉に流れ込んでくる光の強さが、昼の光であることを僕に感じさせる。明るくなった部屋で時計に目をやると、十一時五十分を指していた。


■古びた町の本屋さん

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