第21話
***
――
屋上から見える昼休みの校庭には、何人もの生徒がいた。サッカーやバスケットをする男子がいれば、隅にある花壇のあたりで楽しそうに話している女子もいた。非常階段に設置された喫煙所でたばこを吸う教師の姿でさえ、この場所からはよく見えた。
「ん、えっと……たしか十年くらい前の話だよ」
僕がそれはいつの話だと問い詰めたところ、あいつはそのように答えた。
「ああ、確かちょうど十年前だ。十年前の……そうそう!あの日も今日みたいに暑かったんだよなー」
昔を懐かしむように、あいつは目を細めながら遠くの青い空を見ていた。自分の死んだ日だというのに、なぜそんな楽しそうに思い出せるのだろうか、僕には不思議でならなかった。
「まあ、俺がここから飛び降りたのは夜だったけどな、今みたいに校庭に人はいなかったよ。誰一人もいない、硬い硬い土の上に落ちたんだよ……あ、違うな。確か……ほら?あそこの花壇あるだろ?あの花壇の角に頭をぶつけたんだよ。それで即死だよ」
どのように解釈したらいいのかも、どのように反応したらいいのかも分からないままで、それはあいつの言っている話の内容云々の前に、あいつの存在自体が普通有り得てはならないものであるからで、僕はふいに大きな溜息がこぼれた。何かを吐き出すようにこぼれたその溜息は、自然と青い空の中に溶け込んでいってしまった。
「もしかしてよ……」
あいつがそう言いながら、僕の肩に手を乗せた。幽霊、という存在に手を乗せられたことに驚き、僕は体を少しだけ震わせた。そして、幽霊が僕たちに触れることができるのだと初めて知った。いや、まだあいつが幽霊だと断定した訳ではなかったけど……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます