第20話

 時間は深夜二時を回っていた。彼女とこのベッドに入ったのはいつ頃の事だっただろうか。もう随分と時間が流れていってしまったような気がする。あいつと別れてからあいつのことを思い出したのは今日が初めてで、もちろんこの話を誰かにしているのも初めてだった。自分でも、なぜ忘れてしまっていたのか分からない。忘れていたというよりも最初からそのような経験などそもそもなかったとさえ思えた。全くない事実を、今僕が昔あったことのようにただ話しているだけの創作の話にも感じられるけど、同時にそれは確かに存在した経験のような気もした。

 思い出したというよりも、思い描いている事実、というような気がした。

「それで、そのあいつとはどうしたの?」

「あいつは……」

「何?」

「あいつは、結局は死んだんだよ。というか死んでたんだろうけど」

「あいつはお化けなの?」

「お化け、いや、僕にはどうもそうは感じられないんだ」

「でも、私たちはお化けなんて知らないじゃない。お化けに会った時の感じなんて分からないんじゃない?」

「まあ、それはたしかに……」

ベッドの脇に置かれているスタンドライトからのみ放たれる白昼色の電光が、僕と彼女の影を踊らせていた。僕は横になったままの体勢で彼女を抱き寄せた。

「ん?」

彼女の息が僕の胸にかかった。温かく優しい言葉を掛けられたようで、僕の心は随分と落ち着き、ゆっくりと目を閉じた。

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