第17話

 それからしばらくの沈黙が続いた。そうしてようやく僕の意識が漫画の中に溶け込んでいきそうになったその時に、あいつはそれを邪魔するように僕に言葉を投げた。

「お前、友達いないだろ?」

「は?」

それがあまりにも正しい見解だっただけに、僕は彼の顔を振り向いてしまう程の反応を示した。隠そうと思っていなかったこと程、僕は敏感に反応してしまうのかもしれない。

「いや、別に根拠がある訳じゃない。ただ、なんとなくそう思っただけ」

僕はあいつに返す言葉に迷っていた。隠すことでもないのに、返す言葉を頭のそこら中探しまわっている。

「いや……」

「ん?」

「いや、……よく分かったな」

正直に答えた。僕がどう答えたところできっとこの先変わることなど何もないのだと感じていた。現状で僕に友達がいないことは紛れもない事実であって、僕に話し掛ける人間など、この学校には一人もいないことはもう嫌というくらい身に染みて感じていたのだから。

「ああ、なんとなくな。お前のその感じを見ていて分かったって言うか……なんか感じた」

あいつの言葉を聞き終えたところで、僕はその違和感にようやく気付いた。この屋上であいつに話し掛けられた時からずっと感じていたその違和感が何であるかずっと分からないままだった。そんな感情を抱いてはいたものの、特に気にしていなかったのに、僕はそれに気付いてしまったのだ。僕はそれを気にしていなかったのではなく、気にしないようにしていたんだ。

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