第16話

「ああ、やっとだけどな」

「やっと?」

「やっと、今になって気付いたんだ。もっと早く気付けたら俺の人生は変わっていたかもしれないけど、……まあ、もっと早く気付けばよかったなんて後悔は一切無い」

「後悔する程のことでもないだろ」

「人によっては後悔するかもしれない」

「……そういうことにしておくよ」

あいつの言葉を受け入れることで、とりあえずこの場を乗り切れるような気がしたから僕は素直に同意した。

「無駄なことは考えない方がいい」

あいつは僕の背中目掛けてそう言った。僕は太ももの上で広げられた漫画を目で追っていたけれど、あいつの投げかけてくる会話のせいで、ほとんどその内容が頭に入っていなかった。目に映るキャラクターの発するふきだしの中にあいつの言葉が混ざってくるようで、僕の意識が今どこにあるのかさえ分からなくなりそうだった。

「もう分かったって」

僕は漫画の中に意識を戻すために、あいつにそう言った。背中を向けたままで、決してあいつの方を見てはいなかった。

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