第14話

「何がそれになんだよ」

なぜだか分からないけど、あいつはそれについて随分としつこく聞いてきた。別に隠す必要もないと思っていたけど、なんだか言うことが躊躇われた。それはきっと誰にも言っていなかったからかもしれない。僕から友達が一人としていなくなってしまった事実は、それこそ離れていった友達は知っているにせよ、学校の先生にも両親にも、例え独り言だとしても、この事実を言葉として出したことがない。

 だから僕はその事実をあいつにスムーズに話し始めることが出来なかったし、話すこと自体は容易だったとしても、どう説明したらいいのかも分からなかった。そもそも離れて行った理由が掴めない、こうなった現実は受け止めるとしても、こうなった現実を理解することはできていない。そんな事柄を、しかもちゃんとした言語として、どうやって人に話したらいいものか。

「分からないんだよ」

「分からない」

「ああ、何がどうなって、……とにかく分からないんだ」

「なんだよ、それ」

「僕が聞きたいくらいなんだけどな」

あいつはまた空を眺めた。まだ青いこの空をあいつはどう思っているのだろう。そんな感情がふと浮いた。皆が僕から離れて行ってから、出来る限り人の気持ちに寄り添うことをやめようと努めてきた。それがこうなった現実を受け止める時に、応急処置として自分を守る術であると考えていた。

 だから、そんな感情になったのは随分と久しぶりに感じられた。いつも、意識もない中で思っていた感情を握り潰すことの難しさはその時に知った。そして今、そういった感情は何かふとしたさりげない時に、自分の意思とは無関係に随分と身勝手に生まれでて来てしまうことも。

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