第12話

     ***


 あいつが屋上で僕に話しかけてきたその日は、快晴の空が広がる、なんとも気持ちのいい日だった。昼休みに屋上に来る人なんて僕以外には誰もいなかったから、その日も僕はこの学校の生徒の誰よりも高い場所で、大きな空を独り占めしながらコンビニで買ったパンをかじっていた。早々に昼食を食べ終え、漫画雑誌を開いた時にあいつが現れたのだ。

「お前、なんで一人なんだよ」

屋上で声を掛けられる事などなかったから、僕は一瞬体を震わせてしまった。後ろを振り向くとあいつはそこに立っていて、僕の方を見ていた。見た事のない人だった。

「ここは俺の場所だから」

彼は僕を見たまま、そんな事を言った。

「え?」

「だから、ここは俺の場所なんだって」

「いや……僕はいつもここに来ているけど、……君がいた事なんてないだろ」

「いや……」

あいつは黙った。少し反論しただけで、あいつは簡単に口を閉ざしてしまったのだ。

「僕だってここに来る権利はある」

「ああ、そうかもしれないけど……」

「大体、君はここに来るのは初めてだろう?」

「いや、初めてじゃない」

「僕は毎日来ているけど、君と会った事ないじゃないか」

「ああ、俺は夜に来てたんだよ」

「は?」

「だから、夜」

「なんで夜に学校の屋上になんか来るんだよ?」

「夜は、星がきれいだからな」

あいつはまだ青いままの空を見上げながら言った。酷く気障な人間に思え、僕はこの人をどう扱えばいいのか分からなくなった。

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