第11話

「でもいいんじゃない?今は友達がいない訳じゃないんだから」

「そうなんだ。そうなんだけど……」

「何?」

「いや、ずっと忘れてたんだ。友達がいなかった時があったって事をさ、それで、さっき君が食べちゃいたいって言った言葉で急にそれを思い出したんだ」

「え、もしかして私あなたに悪い事した?」

「いや」

僕は一度咳払いをしてから答えた。「そんな事ないよ」

「でも、そんなに印象的だったのかしらね、その人の言ったその食べちゃいたいってだけの言葉が」

「そう、僕にはそう思えたんだ。まるで理解出来なかったから」

「それで?その人はどんな人だったのよ?」

「どんな?……うん、そうだな。どんなと言ったらいいのか分からないんだ」

「なんで?あなたはその人と仲が良かった訳じゃないの?」

「仲が良くなる以前の問題だよ」

「どういう意味?」

「僕はあいつのことをほとんど知らないんだよ」

「え、だからどういう意味?」

「だから、顔以外のことを知らないんだ。あいつが好きな食べ物も、映画も、音楽も、女も知らない。名前だって知らないんだ」

「は?意味がよく分からないんだけど」

「あいつは僕に話かけた後、すぐに死んだんだ。いや、それもおかしな表現かもしれない……」

「え?」

「うん……、忘れてたよ」

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