第11話
「でもいいんじゃない?今は友達がいない訳じゃないんだから」
「そうなんだ。そうなんだけど……」
「何?」
「いや、ずっと忘れてたんだ。友達がいなかった時があったって事をさ、それで、さっき君が食べちゃいたいって言った言葉で急にそれを思い出したんだ」
「え、もしかして私あなたに悪い事した?」
「いや」
僕は一度咳払いをしてから答えた。「そんな事ないよ」
「でも、そんなに印象的だったのかしらね、その人の言ったその食べちゃいたいってだけの言葉が」
「そう、僕にはそう思えたんだ。まるで理解出来なかったから」
「それで?その人はどんな人だったのよ?」
「どんな?……うん、そうだな。どんなと言ったらいいのか分からないんだ」
「なんで?あなたはその人と仲が良かった訳じゃないの?」
「仲が良くなる以前の問題だよ」
「どういう意味?」
「僕はあいつのことをほとんど知らないんだよ」
「え、だからどういう意味?」
「だから、顔以外のことを知らないんだ。あいつが好きな食べ物も、映画も、音楽も、女も知らない。名前だって知らないんだ」
「は?意味がよく分からないんだけど」
「あいつは僕に話かけた後、すぐに死んだんだ。いや、それもおかしな表現かもしれない……」
「え?」
「うん……、忘れてたよ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます