第9話
まだ高校生だった頃、僕は昼休みの時間のほとんどを校舎の屋上で過ごしていた。友達と呼べるような人は僕には誰一人としていなかったし、教室で誰かと一緒に昼休みを共有する事には、どうしても馴染む事ができずにいた。昔からそうだった訳じゃない。ただ生きてきた中で、僕はその人々との共有する時間に疑問を持ち、そしてゆっくりと孤立していった。小学生や中学生の時に友達だった人間が、本当にゆっくりと時間を掛けて僕から離れていった感覚は、妙な安心感と、妙な孤独感を混ぜ合わせたような、とても気持ちの悪い感覚だったことをよく覚えている。
毎日当たり前のように話し掛けていた人が、段々と言葉の数を減らして、最終的には会話自体を失くしてしまった。その経過は本当に時間をかけたゆっくりとしたもので、それだけゆっくりと時間をかけたものだから、またその関係を戻すにはそれなりの時間がかかるか、もしくは修復不可能であると思っていた。それ程に、僕がいた一人の空間には僕以外の人間を受け入れることのできない強く厚い壁があった。
「僕はさ、高校生の時友達が一人もいなかったんだよ」
彼女はいつの間にか、枕を胸の中で抱きしめていた。
「聞いたよ、それ。昔の友達が自然と離れて行ったのがとても不自然だった、って話でしょ?」
「そう、とても不自然だったんだよ」
「でも……、そんな自然に友達が離れて行くなんてことあるのかな。きっと何か理由があったんでしょ?」
「いや……」
僕は当時そこに何かしらの理由があることを望んだ。元々存在していない理由を無理矢理にでもつけてしまおうと思ったけど、それさえ叶えることができないくらい、皆が僕から離れていった行為はあまりにも自然過ぎたのだ。
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